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金融機関によるUI/UXデザイン会社買収はプラスだったのか? その影響を探る

この記事はClair Byrd氏の記事を公式に許可をいただき翻訳したものです。
大手金融会社であるCapital OneがAdaptive Path買収後、どのように組織内へデザインを取り入れ実践しているのか、プロトタイピング(InVision)をどのように活用しているのかについて触れられています。

※InVisionとは:世界有数のプロトタイピングツールサービス / http://www.invisionapp.com/

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Capital Oneはもはやただの金融グループではない。創設者 Rich Fairbankが唱える「デザインが企業を差別化する」という信念のおかげで、最前線のデザインが生まれる組織と化しているのだ。
彼らがInVisionコミュニティの一員であることを、とても誇りに感じている。

私たちは、Capital Oneのカードパートナーシップのデザイン主任を務めるRyan Pageに、社内におけるデザイン文化や、協働する方法、そして規制産業においてイノベーティブであるためには何が必要なのか、といった話を伺った。

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Capital Oneにおけるデザイン文化について教えてください。

Capital Oneには、人間を中心としたデザインをする文化があります。その中には、人々がお金とふれあう方法をどうしたら改善、変化させられるかを考えることも含まれます。またもちろん、ビジネスとして利益をあげるには、カスタマーの役に立つにはどうしたらよいかということも考えます。

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みんな楽しんでやっていますよ。いくつかの所在地に分かれて仕事をしていますが、直接集まったときは、クリエイティブワークショップを行うこともあれば、仮装に振り付けまでつけたリップ・シンク・バトル(*1)まで、何でもします。

デザインコミュニティにおいては、Capital Oneは未だ、素晴らしいデザインが生み出される場としてパッと思い浮かぶほど知られていないかもしれません。でも、私はCapital Oneのデザインチームとこのデザイン文化にとても感銘を受けているのです。

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チームとしてどのような意思決定を行っているのですか?

私たちは、カスタマーからフィードバックをもらうことにかなり注力しています。 製作途中のプロダクトについて意見をもらうこともあれば、一旦完成したものを改善するためにフィードバックをもらう、といったこともあります。

ですから私たちは、デザインする人間の欲求やニーズを理解するために、カスタマーからのフィードバックと、共感ポイントの分析から始めます。それに加えて、ビジネスに与えるインパクトや、技術的制約に関しても考えます。だからこそ、私たちはいつどのように成果が出せるかを分かっているのです。

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デザイナーはカスタマーの代弁者ですから、物事を「人間中心」に見るためにも、毎日のようにビジネスパートナーと一緒に働きます。
新しくマーケットに放ったものがカスタマーやビジネスにもたらす影響を日々見てきていますから、それゆえ私たちの意思決定が、ベストな成果が得られるものなのか常にチェックして改善していなければいけないのです。

バランスがとれていて、かつ共同、共創的なこのプロセスによって、より強力でニーズを満たすような意思決定をすることができると考えています。このプロセスをブラックボックスにしまいたくはないのです。

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事業戦略を考える上で、デザイナーはどんな役割を担うべきだと思いますか?

人間らしい観点でデザインをすることが、人間らしい戦略を考える上で鍵となります。人間の欲求が考慮されていないような戦略、実際人間がどのように世界を見ているのかという観点がない中で考えられた戦略は、それほど強力なものにはならないと思いますね。

私たちは、決してデザインそれ自体が戦略を作るべきだと言っているのではありません。
デザインというものは、デザイナー、エンジニア、そしてビジネスサイドの共同作業によって作られるものであるべきだと思うのです。
ビジネス的な価値がなければ前には進めません。ですが、ビジネス的な価値が人間の欲求に優先度をつけられるわけではありませんから、長期的な戦略でないと成功は難しいと考えています。

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デザイナーには、ビジネス中心に物事を見る人々にとっては見つけにくいニーズを解き明かし、見極め、まとめる偉大な力が備わっています。
様々な観点をお互いに共有して、全て混ぜ合わせた戦略を生み出すのはとてもワクワクします。

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Capital Oneでは、デザインチームはどのように組織されているのですか?

Capital Oneのデザインチームは、いくつもの小さいチームで構成されていて、サンフランシスコやダラス、ニューヨーク、そして私のチームがあるシカゴを含めて11の場所に配置されています。

集権化された大きなデザイン組織として存在していますが、一つ一つがそれぞれ特定のビジネスや技能に特化したチームとしても組織されているところがユニークなところですね。

この二重のフォーカスが重要で、デザインコミュニティとの繋がりを持ち続けることは大切ですが、自分がデザインするカスタマーの業種や分野などを深く理解することもまた同時に大切だからです。

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加えて、この配置が、デザインをより統一・体系化されたものにする手助けをしてくれるのです。私たちは、カスタマーの暮らし方を劇的に改善して新たなカスタマーを獲得したいと思っていますし、もしくは、簡単でわかりやすいユーザー体験をデザインすることによって、現在のカスタマーとの関係性が広がっていくことを願っています。

そうすることで、それらのユーザー体験がよりエレガントで統一されたものに、そして世の共通認識となってほしいのです。

社内でもデザインチームとしての共通認識を持つために、すべてのデザインチームがビデオで参加する「What’s Up Thursday」というデザインセッションを週に一度開いています。セッションでは、開発したプロダクトの成果や背景をシェアしたり、刺激をもたらしてくれるようなゲストスピーカーを招くこともあります。これによって、デザインチームは毎週、「つながっている」「刺激を受けている」と感じられるようになるのです。

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また、私たちはグループとして仕事の成果を見て、レビューを行っています。百人百様の意見がただ言い放たれ積み重なるだけ、というようなものではなく、穏やかで建設的な議論を交わしています。

デザインチームの構造を例えるなら?

デザインリーダーたちは、特定の事業の焦点やデザインの構想を実現すべく、チームをそれぞれ立ち上げます。人間やビジネスのニーズに対処するため、私たちはチームによって様々な分野に特化しています。デザインストラテジー、ユーザーリサーチ、UXデザイン、インタラクションデザイン、ビジュアル・インターフェースデザイン、コンテンツストラテジー、デザインマネジメント、そしてフロントエンドの開発。私たちはデザインチームの中に、連邦制のような仕組みをとることが大切だと考えています。

私たちは全員、価値を生み出すために、プロジェクトのライフサイクルに沿って場所さえ違えど一緒に働きます。様々な人が加わることで、プロジェクトにライフサイクルを超えたインパクトを与えられるのです。

調査をしたり、数値指標をまとめたりといったことと同じように、これは本質的なクリエイティブのプロセスなのです。決められた役割と責任をただこなすだけの堅苦しいプロセスよりもずっと。

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このアジャイルワークフローはクリエイティブ、イノベーティブな仕事をするためには必要不可欠です。ですから私たちは、プロトタイプやデザインの完成が近づく頃には、すでにソフトウェア開発チームと一緒に仕事を始めていて、プロダクトを市場に出すためにやりとりを繰り返しているでしょう。これは、ビジネス、エンジニアリング、そして私たちのクライアントやカスタマーにとってどうすることが一番いいのかを理解するという問題なのです。

このように働くようになって、カスタマーからのフィードバックにどれだけ早く反応できるか、どれだけ早くプロダクトを市場に送りこめるかということに大きなチャンスがあるということを実感しました。

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InVisionをデザインプロセスの一部としてどのように使っていますか?

InVisionにはとても助けられています。シカゴにある私たちのチームは、InVisionを外部のステークホルダーとのコミュニケーションツールとして使っています。InVisionを使うことで、デザインや試作をシェアできたり、まるで顧客の手に届いている実物のように感じてもらうことができるのです。

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大量のプロトタイプ作成もInVisionで行います。「Boards」のような他のいくつかの機能も探り始めていますが、InVisionで作ったプロトタイプを、組織内でコミュニケーションをとる手段として使いますね。加えて、カスタマーからフィードバックを得るために使ったりもします。

何に興奮しているかというと、私たちはクリエイティブルーティンツールとして使われることをInVisionには求めていたのです。最近までは、法律関係やコンプライアンス、ブランド部門からのフィードバックは、古いソフトウェアを使ってやりとりしていました。ですが、分析や調査を行った結果、フィードバックを集めるにはInVisionを使うことがベストな方法だと、気づいたのです。

InVisionはデザインの承認を得るプロセスにとても役立ってくれています。記録システムとしても重宝していますしね。

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InVisionのプロダクトチームともコンタクトをとっているのですが、彼らは、私たちがInVisionをどのように使っているかをヒアリングを進んで行うのです。彼らはInVisionが今後どうなるかのヒントも
教えてくれたりします。彼らと話していると、そのうちInVisionが私たちの組織中で頻繁に使われるツールになるような気がしています。

チームにはどのようなデザイナーがいるのか、そしてどのように連携を深めているのか教えていただけますか。

ここシカゴのチームでは、デザインストラテジスト、コンテンツストラテジスト、そして「ユーザーラボ」と呼ばれる組織の三つが存在します。この三つはそれぞれ、デザインチームの中で専門分野に特化しています。

また、UX・UIデザイナーやフロントエンドエンジニアもいますね。基本的には、皆必要に応じてプロジェクトにアサインされます。

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ここで例えば、誰かが新しいプロダクトに関して問い合わせてくれる方法について、改善する機会を見出したとしましょう。そんなとき、私たちは現実世界の物理空間について考えてしまいがちです。なぜなら、私たちのプロダクトは、小売業やカーディーラーに提供されることがしばしばあるからです。

しかし、まず考えるべきはカスタマーや販売員、そしてそのとき何が起きているかという物理的状況の関係性なのです。

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ですから例えば、私たちがプロジェクトに乗り出す前、人々の心理状態について理解するためのリサーチを行ったり、デザイン戦略を立てることから始めることもあるでしょう。
プロトタイプ作成をするフロントエンドエンジニアを採用する前に、UXデザイナーやビジュアルデザイナーを採用することもあるでしょう。

私たちは、デザイン組織内の他の人々が何に取り組んでいるのかということや、つながり、似たような体験をして、認識を共有することに多くの時間を割いています。
Capital Oneとしてデザインの統一的なビジョンを形作り、促進し、打ち込むための内部努力を心がけているのです。

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デザインを通して企業のビジョンをどのように保っているのですか?

私たちには幸運にも、人々の人生にインパクトをもたらすことに重きを置く創設者がいます。
加えて、私たちのチームはコアとなる三原則を確立しています。シンプルさ、人間らしさ、そして創意工夫。この三つです。

それに、インスピレーションを与えてくれる素晴らしいリーダーたちがいます。デザインチームだけでなく、他のチームにもです。Capital Oneは、リーダーたちをを褒め称え評価することも忘れません。私たちはこうしてデザイン組織として目指すべき目標を社内で共有しているのです。

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規制の厳しい産業にいる中で、どのように問題に取り組みますか?

イノベーティブであるためには、私たちは早い段階から法律やコンプライアンスに関してのパートナーを巻き込まなければなりません。

仮に彼らのことを乗り越えなければいけない関門だとか、気の進まないことをやるよう説得しなければいけない人々のように考えているのだとしたら、それはよくないですね。

ですから、パートナーシップの感覚を持ち、なるべく早い段階で彼らと共に作業することが問題を乗り越えるコツだと感じています。プロジェクトに手をつけ始めると、彼らのような専門家をチームに招き入れることにとても価値を感じます。専門家の彼らが持つ膨大な知識を必要とするようなとりわけやっかいな問題については、一緒にワークショップを行うこともあります。

規制の捉え方や、カスタマーに対してイノベーティブでいられる方法に彼ら専門家の知識を取り入れられたら、そして同時に規制にうまく適応して対処できたら、とてもいい仕事ができると思います。

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既存のユーザー体験を再構築するようなプロダクトをデザインすることについて、何かベストプラクティスはありますか?

考え直す余裕を持てているかどうか、が大事かなと思います。デザインチームからだけでなく、組織内にいる他の人々からも支援を得る必要があります。自身の中に十分な余裕を持たなければ、追い求めているようなイノベーティブな結果を得ることは難しいのではないでしょうか。

問題に対していつでも広い視野を持つこと、そして、面白いことやインパクトのある起こりうることを受け入れる余裕をもつことが大切です。

私たちは、途中途中で適切な人材を巻き込むことによって成功を収めてきました。
問題に対して、協働してマクロの視点で見られるようにしています。

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その点を考慮して、もし組織内でデザイン文化を育成しようとしている人がいた場合、どのようなアドバイスをしますか?

Capital Oneは創設者が今もそのまま率いている会社なので、デザイン文化を育むのはあまり難しくありませんでした。創設者であるRich Fairbankは、会社が前に進むために、差別化戦略としてのデザインの重要性を説いていましたから。これは大きかったですね。
彼は、Capital Oneにおける全てのデザインの責任者であるScott Zimmerに大きな権限をもたせています。

必ずしも、企業のトップがビジネスとデザインの融合に関して理解があるとは限りませんから、難しい場合もあるでしょう。
とりわけシリコンバレーにおいて、今日勢いがあってイノベーティブな企業では、デザインリーダーが早い段階で経営チームやビジネスサイドと共に議論のテーブルについています。

もしあなたがビジネスを隅から隅まで知り尽くしているデザイナーなら、そして組織内の素晴らしいデザイナーに権限を与えられるなら、共に新しい文化を作り上げていけると思います。それこそがイノベーションのすべてです。

Capital Oneのデザインチームは、デザインがビジネスにもたらす影響についてきちんと示すことががいかに重要か分かっています。人間やビジネスへの影響に関して、あっと驚くような話ができれば、おのずと組織の中でデザイン文化は栄えていくと思います。

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(*1)米トーク番組「The Tonight Show」内で司会者とゲストが口パクパフォーマンスバトルを繰り広げるコーナーのこと。毎回人気の俳優が出演し、一大ブームとなっている。

翻訳元: INSIDE DESIGN: CAPITAL ONE
著者: Clair Byrd
翻訳:Arisa Noguchi

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