見出し画像

文化がデザインに与える影響を学ぶ。Xデザイン学校主宰「サービスデザインワークショップ」感想

初めまして。rootのデザイナー 岸です。

2019年10月に、Xデザイン学校(エックスデザインがっこう)の主宰するワークショップ『2019年度サービスデザイン・ワークショップVol1.台湾ステージ』に参加しました。

Xデザイン学校は、ユーザー体験や人間中心設計、デザイン思考、サービスデザインなどを基礎とした、デザインの学びと研究を推進する団体です。

このワークショップを経ての感想や学びを共有できればと思います。

台湾に行くのは人生で初めてで、申し込む前は不安もありました。大きく異なるコンテクストを持つ人と何かを作ることに対しての関心、台湾の文化への興味が参加を後押ししてくれました。後述しますが、台湾の方々はめちゃくちゃ温かくて、それだけでも行ってよかった…と思えるくらいでした。

リーンな開発環境が整う「台湾大学 D-School」

ワークショップは2日にわたり行われました。1日目は台大創新設計學院(以下台湾大学)D-Schoolの見学・講義と、E-スクーター『Gogoro』のサービス体験です。

画像1

画像:これはD-Schoolではなく、教育センターです。D-Schoolの写真は撮り忘れました。

台湾大学は、台湾を代表する大学の一つ。D-Schoolでは様々な分野の研究者が一同に集い、学際的な研究が行われています。実際にカリキュラム(https://dschool.ntu.edu.tw/course)を見てみると、「社会設計導論(ソーシャルデザイン序論)」や「木工藝實作(ウッドクラフトの実作)」「設計你的人生(人生設計論)」など、多様な講義が行われているようです。

講義の前に構内を見学しました。印象的だったのは、プロトタイプをすぐに作れる環境が身近に整備されていることです。台湾大学の中にある学舎なので、もっとアカデミックな場所を想像していたのですが、「ラフにでもすぐ作って試す」というのを大切にしているんだなぁ、と思いました。

画像2

画像:工具や木工用の電動のこぎり、レーザーカッター、3Dプリンターなど、アイデアをすぐに形にするための設備があります

D-School内を見学した後は、同大学では、台湾大学D-School教授・Xデザイン学校講師による講義に加えて、サプライズでE-スクーターのメーカーGogoroのCMO彭明義氏によるプレゼンテーションを聴くことができました。

台湾国民のニーズを捉えた電動スクーターGogoroとは

画像3

外を歩けば見ない瞬間がない、と思えるほどにスクーターは台湾ではポピュラーな乗り物ですが、騒音や排気ガスなどの問題もずっと指摘されてきました。その問題に新しい解を提示したのがGogoroです。Gogoroは台湾の電動スクーターメーカーで、多数のスマートテクノロジーを搭載しています。

画像4

画像:Gogoroの電池交換のイメージ - 著作権利者:(C)JDP サイト名:GOOD DESIGN AWARD リンクURL:http://www.g-mark.org

Gogoroには二つの特徴があります。一つ目は環境に配慮した交換式バッテリーで走ること。台湾全土には、既に1200箇所以上の電池交換ステーションが設置されており、24時間年中無休で利用可能です。

画像5

画像:Gogoroの利用モデル - 著作権利者:(C)JDP サイト名:GOOD DESIGN AWARD リンクURL:http://www.g-mark.org

二つ目は、スクーター本体の価格を抑え、バッテリーの交換回数に応じたサブスクリプションモデルを採用していること。

台湾人の平均月収は、2019年現在で20万円を切っており、多くの人々にとってバイクの購入は少なからぬ負担となっています。

Gogoroがサービスを開始した当初は実験的な製品だったため、販売台数も少なく、低価格での販売が難しかったようですが、徐々にローエンドのブランドの展開に成功しています。

画像6

画像:繁華街で見かけたGogoroの安価モデルのショーケース

さらにスクーターに埋め込まれたセンサーや各ステーションから得られるデータを利用し、走行状況やエネルギーの需給状況を把握しています。Gogoroが単なるスクーターメーカーではなく、エネルギーのプラットフォームとして評価されている所以です。

街中にも多数の広告があり、特に若年層への普及に向けて力を入れていることが伺えます。ブランディングだけでなく、実際のプロダクトからもセンサーが何十個も配されてるとは思えない親しみやすさを感じました。テクノロジー、プロダクト、マーケティングが噛み合い、圧倒的な完成度でサービスが実現されていると感じました。

2019年7月には、スクーターのシェアリングサービスも始まっており、Gogoroの目指す環境に配慮したシェアリング・エコノミーは着実に実現に向かってると言えるでしょう。

サービス作りは2つの視点で取り組む

2日目は講義とMaaSをテーマにしたワークショップが行われました。

講義のテーマは、サービスアイデアを発想するアプローチの一つ「インサイドアウト」について。インサイドアウトは外的な課題の解決よりもサービスが生み出す意味の創出に重きをおき、個人的・批判的な思考によって、サービスの実現を目指すアプローチです。

その真逆のアプローチが「アウトサイドイン」です。アウトサイドインは現状を起点として目標値や施策をブレイクダウンしていくアプローチ。解決すべき課題が外側にあり、その課題をいかに探索・発見し、解決するかに主軸が置かれています。

画像7

例えば、ユーザーの調査から課題を発見、解決するプロセスはアウトサイドイン的アプローチ。事業上の戦略、ビジョンや理想的なブランド体験を起点として議論を進めるのはインサイドアウト的アプローチです。

何を主役におくかによって二項の置き方は変わりますが、この2つの視点を柔軟に行き来し、外的な課題と内的な理想のどちら側からも問いを立てることが大切だと学びました。

画像8

画像:ディスカッションにおいては、当然日本語は使えません。しかしお互い必死にコミュニケーションを図りました

ワークショップでは、2つのアプローチを使った、新しいサービスの立案を行いました。

まず、インサイドアウトのアプローチからサービスの理想像を描きました。私たちのチームは「あらゆる移動体験から、苦痛や不安を取り除く」をコンセプトに掲げ議論を進めることにしました。出だしとしては、とりあえずこれでも良いかもしれません。

続いて事前課題であった「各人の感じたこと」をジャーニーマップにまとめ、そこで浮かび上がる差異から重要な課題を割り出そうと試みました。これがアウトサイドインにあたる部分です。この作業は非常に興味深く、台湾人と日本人の間にどのような価値観の違いがあるのかが、具体的な行動とセットで見えそうだと思いました。行動の側から文化を掴みにいくアプローチだと言えそうです。

画像9

画像:議論のメモ。時間ギリギリまで混迷し続けたため、成果物を撮影し忘れていました

こうした議論を経てサービスのイメージを組み立てて行ったのですが、私たちのチームは解決すべき課題を詰めきれないまま、なし崩し的にサービスを組み上げてタイムオーバーとなりました。

先ほど「柔軟にインサイドアウトとアウトサイドイン、二つの視点を行ったり来たりできることが大切」だと述べましたが、この姿勢に基づくファシリテーションと、作って壊す作業がもっと必要だったと反省しています。

台湾の文化から考えるサービスが生まれやすい土壌について

画像10

画像:台湾の繁華街

以下余談となりますが、台湾に行って感じた文化についての感想を述べたいと思います。台湾の人々はせっかちだと聞いていたのですが、例えばスーパーでは本当に流れ作業といった感じで、息つく暇のないやりとりが交わされています。

日本的な感覚からしたら「おもてなし」がなさすぎるのかもしれないのですが、下手な気遣いがなくてラクだとも感じました。きっと台湾のせっかちさや合理性は、開放的にありのままに暮らす、という価値観と表裏一体なのでしょう。

画像11

画像:警察仕様のGogoro

また、台湾では新しい技術が随所に織り込まれている点も見逃せません。例えば、先に述べたGogoroはすでに警察へ相当数が配備されているようでした。もしこれが日本だったら、いろんな検証や利権の問題で導入するまでに何年もかかるでしょう。他にもバスの場所がリアルタイムでわかるアプリやシェアサイクルなど、日本では導入が進んでいないサービスが実際に使われています。台湾には、街の規模が大きすぎないことや、合理的で開放的な国民性に支えられた、新しいサービスが育ちやすい土壌があるのかもしれません。

2月に福岡で行われるサービスデザインWSでは、前回参加された台湾の方々の一部が来日されます。台湾の人々ならではの価値観や感性が息づく、豊かな体験を一緒に考えられたらと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?