望ましくない結果をどうユーザーへ伝えるべきか?伴走して課題を紐解きながら柔軟な対応を実現
〜マネーフォワード ケッサイの顧客満足度向上のために「否決体験」における課題の特定と解決策のデザインを実施〜
「マネーフォワード ケッサイ」は、マネーフォワードケッサイ株式会社が運営する企業間後払い決済サービスです。同サービスは、取引企業の与信審査、請求書の発行・発送、入金状況確認、未入金時の取引先への連絡など、請求にまつわる様々な業務を代行します。
rootは、マネーフォワード ケッサイのUIリニューアルを支援。加えて、顧客体験の向上を目指したユーザーインタビューや、インタビューから得られたインサイトをもとにしたコミュニケーション設計などを手掛けました。
プロダクトを顧客目線で改善し続けるサイクルがチームへ定着。「マネーフォワード ケッサイ」におけるインサイトの発見や課題解決を支援
ご相談いただいた時の状況
rootは、マネーフォワード ケッサイのサービス全体のUIリニューアルをお手伝いしました。その過程で、クライアントとともにデザインツールのFigmaへの移行や、FigmaでのUIコンポーネントの登録、ライブラリ化など、デザインプロセスの改善等にも取り組みました。
UIリニューアル後には、顧客満足度の向上に取り組むことになりました。顧客満足度向上における課題となっていたのが、同サービスにおける否決体験の改善です。
課題に取り組んだプロセス
全貌が見えない否決体験に生じていた課題
マネーフォワード ケッサイでは、ユーザーである売り手企業が登録した取引先企業(買い手企業)や取引の与信審査をします。
審査の結果、否決だった場合はサービスのUIとテキストメールの二つの手段で否決結果を通知していました。ですが、多くの売り手企業が一度に大量の取引先企業や取引を登録するため、結果通知のメールが登録した取引の数分送られてしまい否決結果のメールが埋もれてしまっていました。それにより、審査結果の中に否決が発生していたことを後日改めてメールを確認した際に気づくという状況が発生していました。
否決されてしまうと、ユーザーは『請求業務を代行してもらう』『入金保証される』といった当初の目的を達成できなくなってしまいます。以前までの否決通知には審査の結果否決となってしまった事実だけが記されており、それを受け取った売り手がどんなアクションを取るべきかの案内がされていませんでした。その結果、否決通知を受けたユーザーからの問い合わせがカスタマーサポートに集まり、対応に多大なコストがかかっていました。
そこで顧客満足度の向上とカスタマーサポートのコスト削減の2つを目的に、審査否決の体験改善を考えていきました。プロジェクトの進行には「デザインプロセス」を採用、発散と収束を行い、具体の解決策まで落とし込みを行いました。
視野を広げるために参考事例を幅広くリサーチ
否決の通知を行う際にユーザーが必要としている情報や伝えるべきメッセージを検討する必要がありました。そのための手がかりを探るため、ユーザーの意にそぐわない結果を不快感・不信感をもたせることなく伝える方法を調査しました。
複数ある解決策のなかから絞り込み
リサーチや現状分析の結果から、解決策のアイデア出しを行いました。出てきたアイデアはマトリクス上で整理を行い、スケジュールやコスト、確実にユーザーが価値を感じるかどうかを検討し、絞り込みをしました。
その結果、2ヶ月ほどの期間でアウトプットできるもの、かつ実現性、コストも現実的な案を選定。「次の行動を明確にする」「設定方法に応じた影響範囲の出し分け」など、適切な通知内容をユーザーにわかりやすく伝える案を採用。大まかな通知方法の方向性を決定しました。
ユーザーインタビューで潜在ニーズも発見
ユーザーへの通知内容や方法を具体的に検討する上で、実際にサービスを利用している売り手側のユーザーを対象にユーザーインタビューを実施。行動にはどんな条件分岐があるのか、どんな情報があるとユーザーは判断しやすいのかなどを調査していきました。
ブランドの人格を踏まえた結果の通知方法の策定
否決結果を通知する際は、文章表現にも配慮する必要があります。rootのUIデザイナーがブランドの人物像を策定し、どういう順序でメッセージ伝えるべきかや文体などの表現を調整していきました。
否決結果を伝えるためにメールデザインサービス「stripo」を採用しました。stripoはHTMLの知識がなくてもメールテンプレートを素早くデザインでき、施策をスピーディーに実行できました。今回はメールのテンプレートやモジュールを作成し、マネーフォワード ケッサイのニーズに応じてメールが設計できるようにしました。
否決結果が多数の取引結果通知メールの中に埋もれてしまう課題に対しては、メールの件名に取引先企業名を入れるというルールや通過か否決か一目でわかるアイコンを設定することで解決を図りました。
解決のアプローチ
パターン収集と分類のためのリサーチ
ユーザーが体験の中で良さを感じるパターンを集めて分類を行い、その良さを感じるときの条件や特徴を探索しました。建築・都市計画の歴史の中で発明された「パターン・ランゲージ」の考え方を応用しています。
発散と収束を繰り返すデザインプロセスの導入
デザインプロセスとは、目的設定からリリース後の評価、そして評価をふまえた改善までの一連の流れを指します。今回のプロジェクトではパターンの収集やアイデア出しによる「発散過程」と、施策の実現性とユーザーへの影響度による絞り込みを行う「収束過程」を進行に取り入れました。
ユーザーインタビュー
ユーザーがサービスを利用するときに置かれている状況やユーザー自身の立場を理解するために、インタビューを用いました。インタビュー結果は設計へ活かし、ユーザーの利用文脈に沿った形で機能や情報を提供できることをめざします。ユーザーの理解や立場に関して得られた発見を起点として、新たな機能へのニーズが見つかることもあります。
プロセスから生まれた成果
プロジェクト当初においては問題の原因や解決策が不明瞭な状況でした。プロジェクトを通じてデザインプロセスが導入されることにより、十分な発散過程を踏まえて、納得のいく解決策へと収束させることができました。現在はデザインプロセスをサービスの改善だけでなく新規サービスの立ち上げにおいても導入しており、rootはその活動を支援しています。
また、ユーザーインタビューの導入によって審査否決の体験に関する理解が深まっただけでなく、潜在的なニーズも発見。更なるニーズや問題の理解へむけたインタビューへ発展しました。
プロジェクトメンバーとクライアントからのコメント
チームメンバーとデザインプロセスに沿って十分な発散と収束をすることで、本質的な解決策を導き出すことができました。発散における情報収集では、ユーザーへのヒアリングも積極的に推し進めることができ、要所ごとにCSから審査部まで様々な部署を横断的に巻き込みながら進めることができした。
デザインプロセスを通して、調査内容や情報の構造をわかりやすく整理してもらうことで、納得感を持ってユーザ体験の改善を進められたと思っています。社内では得られない知見を共有していただけたり、改善のプロセス自体を他の案件でも流用できるように形式化するなど、課題の改善だけでなく、社内の検討フローまで考慮した提案をしてくださるのでとても助かっています。
プロダクトマネージャーまるさん デザイナー原田寛之さん