ブランドの立ち上げから伴走し、オンラインとリアルを融合したユーザーの購買体験を実現
〜事業立ち上げ時からアジャイルな開発体制を構築してECサイトのリリース後を見据えて支援。リリース後の課題に対しても定量・定性調査を実施し検証を行いながら改善〜
株式会社HiOLI(以下、HiOLI)は、生産者の想いやこだわりを大切にしたクラフトアイスクリーム「HiO ICE CREAM(以下、HiO)」やクラフトバタースイーツブランド「Butters」を製造、販売しています。
HiOは、自由が丘の工房を兼ねた店舗「Atelier」とオンラインショップでアイスクリームを販売するD2Cと呼ばれるモデルでサービスを提供しています。オンラインショップでは、商品が購入できることに加え、毎月アイスクリームが届くサブスクリプションサービス「Pint Club」も展開されています。2020年4月からは「ナチュラルローソン」での販売も開始。2021年7月には関東にある約1000店舗のローソンで販売されるまでに拡大しています。
rootは、新しいアイスクリームの体験を生み出そうとするHiOのショップの立ち上げ前から伴走。デジタルチャネル全般のサービスデザインとサービスの立ち上げをサポートしました。
リアルとオンラインを融合し、「HiO ICE CREAM」の”美味しい”を伝えるECサイトをデザインする |ブログ|UI/UXデザイン会社 | root Inc.(株式会社ルート)
ご相談いただいた時の状況
HiOは、ブランドを立ち上げる前からオフラインとオンラインが融合した体験を作り出そうと考えていたそうです。そのため、単なるECサイトやブランドサイトを作ればいいわけではなく、全体の体験を踏まえた設計にしていく必要がありました。
rootにご相談いただいたのは、過去に私たちがD2Cサービスの立ち上げを支援した事例をHiOLIの方が知ったことがきっかけでした。取り扱う商品は異なるものの、店舗とオンラインを組み合わせたサービスデザインの実績があるデザインファームは少なく、今回の案件にご一緒することになりました。
プロジェクトがスタートしたタイミングは、HiOの商品パッケージ等は完成していませんでした。しかし、ブランドのリリース日は決まっており、同時にECサイトを立ち上げることも決まっていました。
ビジュアルが確定していない状態でECサイトのデザインに取り組むことに加え、ECサイトは単発の購入と、サブスクリプションでの購入の2つの行動パターンに対応したものにする必要がありました。事業の立ち上げフェーズということもあり、要件を整理しながら、制作できるところから制作していく必要がある状態から伴走し始めました。
課題に取り組んだプロセス
限られたスケジュールの中でアジャイルなプロセスで立ち上げを支援
リリース日は決まっていましたが、商品パッケージ等がまだ完成していない状態であり、またECサイトに求める機能も通常よりも多い中で、スプリントの概念やデザインプロセスの理解を促す提案を行い、立ち上げからリリース後にかけて持続的に関わることを前提とした進め方を設計しました。
事業自体も日々変化しながら、それに合わせてECサイトのデザインを進めていく必要があったため、事業構想の理解や事業の進捗状況のキャッチアップを進めるために、毎週定例会議を実施し、可能な限りコミュニケーションを密に行いました。
事業の立ち上げフェーズでは、複数のことが同時に進行します。そのため、関係者間で認識のズレがなくなりやすく、進捗を追いやすくなるように、情報の集約と可視化を徹底しました。プロジェクトに関係する情報をNotionに集約し、タスク管理をTrelloに集約して、「ここを見れば現状がわかる」という状態となるよう、root側でプロジェクト進行をしていきました。
プロジェクトの情報を細かく可視化し、考えていることをこまめに共有できていたことで、技術的に制約のある対応についても進行できました。例えば、ASP(注)やサブスクリプション機能なども含めて、システム構築におけるハードルもクリアできました。リリース段階では構想から見送りをした機能もありましたが、提供する機能を取捨選択しながら伴走しました。
※注 ASPとは、Application Service Provider(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の略でECカートの外部提供システムのこと。ASPを利用することで、自社でECサイトを構築しないでも手軽にECサイトを運営することができる。
ユーザーインタビューを通じて潜在課題を抽出
ブランドの立ち上げに合わせて、ECサイトをリリースできましたが、広告を使った集客ではなく、オーガニックどこまで伸ばせるか?と集客していたことに加え、想定よりもECサイトのCVRが低く、伸び悩んだ状況にありました。今後プロモーションを強化していくためにも、CVRの改善が必要になるため、この課題に取り組みました。「サイトに来てくれた人に魅力を伝えきれていないのではないか?」という仮説がでてきましたが、Google Analyticsなどのアクセス状況を見ても改善すべきポイントがはっきりと分からない状況。定性データを集めてCVR改善の仮説を構築するために、ユーザーインタビューを行いました。
ユーザーインタビューは、2つの目的を設定して実施しました。
- ECサイト設計時にたてたユーザー体験仮説が正しいのかどうか検証を行う
- ECサイトを訪れるユーザー像を明らかにする
序盤の数回は、rootが調査設計を行い、rootとHiOLIで一緒に行うことで、ユーザーインタビューの実施方法を学んでいただきました。その後はHiOLIのみで数回インタビューを行い、ユーザー調査を進めていきました。
その結果、ECサイト上でのブランドの世界観を重視した商品画像の見せ方がアイスクリームの美味しさを訴求できていないという課題や、ECサイトを訪れるユーザーはフレーバーに関する情報を求めているという事実を発見できました。
課題に基づいて改善案の立案と実装
課題を発見した後は、プロトタイプを作成し、ユーザーの反応を見ながら検証していきました。
例えば、「美味しさ」をECサイト上でうまく伝えられていないという課題に対して、第一にフレーバーの魅力が伝わるようにするため、生産者の声や素材のこだわり等の詳細な情報は、別途存在しているインタビュー記事に導線をつくるように改修しました。
また、ユーザーインタビューからはECサイトを訪れたユーザーはフレーバーに関する情報を求めることが分かったため、ECサイト上でフレーバーを軸にした商品検索ができるよう改善しました。
このように、初期の仮説や設計を絶対とするのではなく、サービスとして運営していくなかで明らかになったユーザーのニーズに対して柔軟に応えられるよう、体制を構築していきました。例えば、リリース時のECサイトはサブスクリプションプランの存在を目立たせる設計でしたが、リリース後の発見から対応が必要になりました。発見したのは、サブスクリプションの会員数が伸びすぎると生産が追いつかないという課題、夏期におけるギフト需要が高いという傾向などです。そのため、様々な方が閲覧するトップページでは単発購入を促すような表示に変更。サブスクリプションはアイスクリームを長く楽しんでいただきたい方をターゲットにして表示するように改修を行いました。
ユーザーインタビューから得られた情報は、商品開発自体にも反映。ユーザーは、いろんな種類を食べたいというニーズが分かり、セットの中身を選べるパッケージを開発。身近な人に贈るギフトのために贅沢なパッケージよりも手書きのパッケージに変更しました。
解決のアプローチ
デプスインタビュー
ユーザーが実際にECサイトをどのように操作しているのかを観察させてもらい、ヒアリングを行いしました。それによって事業側で持っていた課題の仮説と、実際にユーザーが感じている課題のズレが浮き彫りになり、数字だけでは見えてこない課題も明らかにすることができました。
プロトタイピング検証
ユーザーの実態を把握した後、プロトタイプを作成して仮説検証をしました。
アジャイルな開発体制の構築
プロジェクトの初期からスプリントの概念やデザインプロセスの理解を促すための提案を行い、アジャイルな開発体制を構築できました。
プロセスから生まれた成果
定性調査をもとに商品バリエーションの改善
ユーザーインタビューから得られた情報を活かし、フレーバー軸で商品選択ができるような商品バリエーションの見直しもできました。
ECサイト改善による成果の向上
ユーザーインタビューを通じて発見した課題の解消のために、ECサイト内のフレーバー検索の改善や商品詳細ページの改善を行い、CV率(コンバージョンレート)が向上。サブスクリプションにおける売上も一年で倍に成長しました。
事業の成長ステップに合わせた柔軟な開発を実現
HiOでは食品を扱っているため製造ロットや販売シーズなどを意識した開発計画を立案する必要がありました。アジャイルな開発体制を組むことで、販売施策と連動させながら柔軟に計画を調整。施策の状況に応じて、必要な改善や開発を行うことが可能になりました。
プロジェクトメンバーとクライアントからのコメント
結果にちゃんとつながって一安心です。個人的には、世界観を伝えつつ、売れるECサイトのデザインが実践できたのは嬉しいですね。それが実現できたのも、HiOLIさんがしっかりとターゲットを定めていたからだと思います。
また、購買チャネルは増えていっているので、ECサイトではアイスのおいしさを多くの人に伝えて、HiOのアイスを知った後をしっかりカバーしたいですね。事業も成長過程なので、しっかり伴走していけるようにしたいと思います。
rootのみなさんは、ECサイトの立ち上げから一緒にやってきた同じチームのように思っています。ECサイトの運用を一緒に考えてくれて、HTMLを触ったこともなかった私たちにわかるよう資料も作ってくれて、同じチームとして関わってくれた欠かせないパートナーです。今後も、販売チャネルは広げていくので、いろんな場所でお客様が食べられるようにしていくと同時に、HiOのアイスを食べた方が、「ECサイトでも注文してみよう」と思ってもらえるように改善を重ねていきたいですね。
rootさんはプロジェクトとしてディレクションしてくれるだけでなく、私たちが実現したいことを汲み取ってくれて、一緒に考えてくれて、とても頼りにしています。今後もぜひご協力をお願いしたいです。
株式会社HiOLI 取締役COO 玉井賀子さん CXプランナー 田谷あず咲さん