- date
- 2017.01.05
SlackのUIデザインを手掛けたデザインエージェンシーMetaLabのデザインプロセスとは?
この記事はSlackのデザインを出掛けたカナダのデザイン会社Metalabの創始者Andrew Wilkinson氏の記事を公式に許可をいただき翻訳したものです。
「君たちは、チャットボットについてとりとめのないゴミがつまったPDFを提出して、私たちの数か月分の時間を無駄にしたね!」
私はクライアントのある成功企業のCEOの元を訪れていた。彼は満足していなかった。彼が私たちに依頼をしたのは、プロダクトの次のバージョンを考える上で手伝ってほしいというのが理由だった。私たちはいつものやり方で、デザインにすぐに着手するのではなく、数ヶ月を費やして、彼の事業の未来の再考を試みるような戦略資料をつくっていた。
彼は不満を抱えていた。彼がMetalabの元にやってきたのは、すばらしいプロダクトを開発できるという私たちの評判を耳にしたからだ。にも関わらず、私たちは何か月もプロジェクトに費やして、チャットボット、AI、その他多くのバズワードに関する50ページにもなるクソみたいな資料を彼に提出したのだった。
私は顔をしかめて、「あなたは正しい」と言った。大失敗を犯したのだ。私はあまりに恥ずかしくて、10年間で初めてのことだが、状況を好転するためにできるたった一つのことを実行することにした。全プロジェクトにかかった料金を返金して、彼の信頼をもう一度取り戻すまで無料で働くということだ。チェックを切るとき、一桁一桁が身を切るように沁みた。1-0-0-0-0-0-0ドル。10万ドルだ。なんてことだ…
目次
膨れ上がる悩み
私のプロダクトデザインエージェンシー、MetaLabがこんなに複雑なプロセスを経験したことはなかった。過去10年間で、私たちは世界のもっとも成功した企業がデジタルプロダクトを開発する際の手伝いをしたことで高い評判を得た。Slackの初期バージョンのデザインをしたり、YouTubeやWalmart.comといった大きなサイトの再デザインに関わるなどして、幸運なことに私たちのようなエージェンシーの規模にしてはすばらしいプロジェクトに関わることができた。
昨年のことだ。私たちは今後の成長について真剣に考えていた。そして、不安になり始めていた。数年で25人から100人のチームに成長して、HUGEやCritical Massのような有名なエージェンシーとも今や競争していることに気づいた。
ライバルについて調べているうちに、自分たちは数個のコアなサービス、つまりプロダクトデザインと開発にフォーカスしているのに対して、有名エージェンシーの彼らは広告キャンペーンから公共でのアート展示にいたるまであらゆることをやっているようであることがわかった。その過程で、彼らはみないわゆる「戦略」なるものを提供しているようであることに気づいた。顔が赤くなった。戦略ってなんだ、どうして私たちはそれを提供していないんだ。大手のクライアントは私たちを真剣に扱ってくれるだろうか。チャンスを逃しているんじゃないのか。
多くのビジネスが道をあやまるように、私たちも他のプレイヤーに追随して、戦略を販売し始めるという決断をした。大手エージェンシーで働いた経験のある戦略専門家を何人か採用して、新しいプロジェクトのすべてに戦略ステージを追加した。チームメンバーはクライアントの元に飛び、クライアントと午後を過ごし、そして何週間もかけて巨大なプレゼンをつくって、クライアントの事業の未来についてを説明した。プレゼンはすべて、大きな構想についてだった。クライアントが成し得ることはなにか、そして新しい破壊的なテクノロジーを活用して、どのようにそれを成し得るのかについて。チャットボットやマシーンラーニングを使って、いかに業界を再考できるか。そういったものだ。
「コンサルティング。それはまさに、時間を教えてあげるためにクライアントの懐中時計を盗んでしまうこと。そして、時計を自分の元に持ち続ける術のことだ。」───作者不明
残念なことに、そうしたことは一つも私たちがやっていることに沿っていなかった。最高の事業というのは一つのことに長けている。MetaLabでは、それはものづくりだ。戦略は今から10年後についてのことだが、私たちが得意なのは「今」だ。クライアントはモックアップやプロトタイプが欲しいのであって、戦略に関する50ページの資料ではないのだ。
Meta Labのデザインチームは苛立っていた。ただ座って、クライアントの話を聞く姿勢はどこへいった。ユーザーと話して、彼らの不満を聞くやり方はどこへいった。クライアントと向かい合って、彼らのプロダクトと目標を理解して、そして袖をまくって仕事に取り掛かるという、ここ10年間うまくいっていたシンプルなやり方は、どこへいってしまったんだ。
ハイコンセプトの戦略をするという短命に終わった経験を経て、自分たちのシンプルなやり方こそが、MetaLabを他のエージェンシーよりも際立たせていたものの一つであることが分かった。可能性に関するふんわりとしたビジョンを説くことに陥ってはだめだ。だまって、プロダクトをつくって、フィードバックをして、私たちのチームとクライアントの両方が納得いくまで改良を重ねること。かっこいいもんじゃない。でも、それがいくつかの卓越した結果を導くようだ。
プラニング < イテレーション
思い切って言いたい。プラニングというのは多くの場合、将来起こるであろうことを予測することを指す、単におしゃれな言葉だ。それが戦略に関するプレゼンだろうと、めちゃくちゃ詳細なプロダクトのロードマップやビジネスプランだろうと、成功につながる完璧な100のステップを定義することなどできない。こうしたことを考えると気分はよくなるが、運勢占いとほとんど変わらないことも多い。未来を予測するのは難しい。
「予測者には二つのタイプがいる。分からない人と、自分が分からないことが分からない人だ。」──John Kenneth Galbraith
誤解しないでほしい。すべての会社はある程度の長期的な戦略が必要だし、戦略立案に非常に長けている人もいる。でも、多くのケースでは、プラニングをしながらスピーディーにイテレーション(反復)をまわす方が良いと思っている。
一歩進む。周囲を見渡す。またもう一歩進める。周囲を見渡す。山を登っていることを確認する。コースを修正する。もう一歩進める。
過去10年以上もの間、私たちはかなり高い山々をこうやって登ってきたのだ。
スケートボード、自転車、車
戦略の大失敗によって、私たちは原点に立ち返ることができた。最初はうまくやっていたことにも気づいた。そして、数カ月を使って自分たちのプロセスを文書にまとめた。それを私たちは「スケートボード、自転車、車」と呼んでいる。
なんで、そんなアホみたいな名前かって? なぜなら、プロダクトをつくるときは、その全プロセスにわたって触って確認できること、満足感が得られること、楽しいことが大事だからだ。リーンとか、アジャイルとも呼べるかもしれない。呼び方はなんであれ、つくる過程で自分で触りながらフィードバックをあたえられるものを開発するということだ。
世界のトップ企業たちは、もう理解していることだ。彼らの多くが、何かしらのアジャイルなプロセスを取り入れているが、さまざまな理由で、多くのエージェンシーは90年代に人気を博したトップダウンのスタイルを使っている。
大きな仕様書を机に広げる。何ヶ月もかけてリサーチをし、戦略を立てる。大量のプレゼン資料をつくり、プレゼンを何度も繰り返す。今日やることについてではなく、実行し得ることについて長時間議論する。実際に使ったり、手に取れるものはなにもない。
私たちは、それとは別の方向に進むことにした。1週間の単位で、全力疾走で働く。最初の週はクライアントと過ごし、デザインチームがクライアントのプロダクトについて学び、実現したいことを学ぶ。そのあと、月曜にキックオフして、毎週金曜日にはなにか実際のものを提出する。最初はワイヤーフレームかもしれない。次はムードボード。次は精度の高いモックアップ。1ヶ月後には、スマホ上で実際に触れるInvisionのプロトタイプ。金曜日に納品して、フィードバックを得て、月曜日が来たらまた納得いくまでプロトタイプづくりを続ける。ものすごくシンプルだけど、うまくいく。
それから、私たちはサービスを改めてフォーカスすることにした。レストランに行ったときに、そこが中華、ピザ、英国パブのすべてをやっていたとしたら、家に帰ったら胃腸薬を飲んだ方がいいだろうなと簡単に推測できるだろう。秀逸さは、特化から生まれる。
私たちは、職人がつくるパスタ屋になりたいのだ。35年間、手作りのものを提供して、5つのメニューしかなく、入り口に行列が並ぶような場所だ。あらゆるものをあらゆる人に提供するようなことはしたくない。一つのことにめちゃくちゃ長けている存在でありたいのだ。だから、私たちはハイレベルな戦略やコンサルはやらない。キャンペーンの仕事もやらない。マーケティング用のマイクロサイトもつくらない。印刷もソーシャルメディアもやらない。プロダクトだけをやる。一日中、毎日。
自分の活動に専念する
今のところ、順調だ。これまでで最高の仕事をしている。それから、チームには10ページ以上のプレゼン資料をつくるように求めらることが万が一あれば、私に精神難民の申請をするように伝えてある…。
戦略を完全に受け入れていないというわけじゃない。今でもやっているが、できるだけシンプルに、イテレーションをまわす形にしていて、プロダクトとユーザーに100パーセントフォーカスするようにしている。プロジェクトの最初に、クライアントと彼らの目標についての質問に答えることに集中する時期を短く設けていて、そうすることでチームが意思決定のフレームワークをもち、スピーディーなプロトタイプにすぐに取りかかれるようにしている。こうしたやり方のおかげで、非現実的なことを取り除きながら、より良い仕事ができるようになったと思う。
それから、多額の返金の件についても触れておこう。嬉しいことに私たちはクライアントの信頼を取り戻して、新しいプロジェクトを勝ち取ることができた。度を越した戦略をやるのではなく、今回はシンプルにしている。何時間か彼のチームを共に過ごして、彼らのユーザーが不満を感じている部分について学び、彼らの競合を簡単にチェックしたあと、私たちのチームから4人の最高のデザイナーを投入してスケッチを始めた。その2週間後、プロトタイプを提出し、彼らをアッと言わせ、信頼を取り戻した。そして今は、発表が待ちきれないほどのすばらしい新プロダクトに取組んでいる。
これは、コカコーラが味の改良に失敗したカンザス計画のMetaLab版だと思っている。今うまくいっていることに執着するべき時もあるということだ。
Andrew Wilkinson 氏はMetaLabのファウンダーで、カナダのビクトリアに在住しています。Twitterで彼をフォローしてみてください。
原文: Skateboard, Bike, Car – Building Products The MetaLab Way
翻訳: 佐藤ゆき
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