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人間の不合理性をプロダクト作りに活かすには?デザイナーが知っておきたい認知バイアス【前編】

本記事はイスラエルのスタートアップ「Pipl」でVP Productsを務めるGil Bouhnick氏のブログ記事を公式に許可をいただき翻訳したものです。

記事ではデザイナーが知っておきたい41個の認知バイアスが説明されています。

本記事は前編です。意思決定における「見た目」の影響や不合理性など、21個のバイアスを紹介します。


認知バイアスは人間の思考における“システムエラー”であり、意思決定に影響を与えている。

私たちは、物事をありのまま見ているわけでもないし、ありのまま覚えているわけでもない。主観にもとづいて社会的な現実をつくりあげ、意思決定している。

プロダクト作りに携わる人間は、届けたいメッセージをより良く伝え、プロダクトを改善するために、認知バイアスを知っておく必要がある。

“邪悪”になるのは避けなければいけない

もちろん、認知バイアスを“邪悪”な方法で利用することは絶対に避けなければいけない。認知バイアスは、プロダクトの価値を証明するフェアな機会をつくるために役に立つものだ。ユーザーと誠実に信頼を築いてこそ、コンバージョンレートやエンゲージメント、リテンションレートが向上する。

プロダクト作りにおいて“どうパッケージするか”という視点は、何よりも重要だ。正確かつ無駄なくパッケージングしたからといって、ユーザーがプロダクトを試したり、新しい機能を使ってくれるわけではない。

ユーザーは“それ以上”を必要としている。そのために役立つのが認知バイアスだ。

この記事では、そうした認知バイアスを説明していく。オンボーディングの改善やコンバージョンレートやリテンションレート、売り上げの向上に取り組むうえで、うまく活用できる認知バイアスだけでなく、私たちが回避すべきものも紹介する。

加えて、いくつかの認知バイアスについてはUIの具体例も図解した。きっと、飛ばし読みでも理解しやすくなっているはずだ。

どんな人に役立つリストなの?

リストは、プロダクトマネージャーやマーケティングマネージャー、起業家にとって有益だと思う。ソフトウェア開発に携わる人にも関係のある内容だ。ユーザーの行動の裏にある心理的な事象を理解し、より良いプロダクトを作るために役立つはずだ。

最後に言っておくと、これらの認知バイアスは決して私が発明したわけではない。仕事で必要になる度に書き留めておいただけだ。リストの項目について反対意見がある、あるいは役に立つと信じない人がいたら、それはあなたが特別な人だからかもしれない。(もしくは『ダニング=クルーガー効果』のせいかも)

では、長い前置きは終わりにして、さっそく始めましょう

「見せかけには騙されない」って本当? 

情報がどのように表現されているかは、私たちの思考や意思決定に大きな影響を与えている。「見せかけに騙されない」と言うのは簡単だが、プロダクトにおいては見た目が重要な役割を果たす。

1.街灯効果

人間はもっとも簡単に目に見えるものを探しがちだ。

こんな例え話がある。夜遅く、警察官は街灯の下で財布を探している酔っ払いと出会った。「ここで財布を失くしたのですか?」と警察官がたずねると、酔っぱらいはこう答えた。

「いえ、公園で失くしたんです。でも財布を探せるほど明るい場所がここしかなくて」

プロダクト作りにどう活かすのか?

プロダクトやマーケティングでも、ユーザー満足度でも、答えを出すには深く掘ることが大切だ。ほとんどの答えは“明かりのある場所”を探しても見つからない。データを集めるよりも、深く分析するほうが大変なのだ。

2.認識された価値のバイアス

人間は「どのように見えるのか」や「どのように提供されるのか」によって、プロダクトの価値を判断する。先ほど述べた通り、パッケージングがすべてなのだ。

プロダクト作りにどう活かすのか?

見た目のデザインはプロダクトの成功を左右する。余分なスペースや間違った色、的確に配置されていないテキスト。すべてがコンバージョンレートに影響する。UIは最優先に考えるべきだ。

(文字の大小など、ちょっとしたUIの変更が印象を大きく変える例)

3.画像優位性効果

写真や画像は文字に比べて圧倒的に記憶に残りやすい。

UIにどう活かすのか?

コンテンツにはできる限り画像を入れよう。特に商品やサービスを売りたいのなら、優れたビジュアルはコンバージョンレートに大きく影響する。

4. レストルフ現象(アイソレーション効果)

いくつも同じ見た目のオブジェクトが並んでいるなかで、一つでも見た目の異なるオブジェクトがあると、強く記憶に残る。

デザインにどう活かすのか? 

CTAボタンが目立たせたいときは、異なるサイズや色を選び、置く場所も変えよう。

想像していたよりも、ずっと保守的

人間はイノベーティブであり、新しいテクノロジーを求めている。と、言わることもあるが、私たちの本能にもとづく意思決定は、常にリスクを最小化し、慣れ親しんだものに留まろうとする。

5. 現状維持バイアス

人間は変化よりも現状維持を好みがちだ。現状がベースラインとしてあり、それが変化することは、常に損失として認知する。

6. 授かり効果

人間は一度何かを手に入れたら、手に入れる前に感じていた以上の価値を、その“何か”に感じるようになる。

元からその“何か”を持っていなかった場合よりも、より強くその“何か”を維持しようと努力するのだ。

プロダクト作りにどう活かすのか?

無料トライアルは、授かり効果をうまく使った事例の一つだ。ユーザーにプロダクトを試してもらえたなら(例えばプロフィールを作成するなど)トライアル終了後、彼らはプロダクトが使えなくなる状態を損失と捉える可能性が高まる。

オンボーディングにどう活かすのか?

会員登録の前に一度プロダクトを利用してもらう機会を設けてみよう。

リテンションにどう活かすのか?

ユーザーが「失うのを惜しい」と思ってくれるようなメリットを届けよう。

7. IKEA 効果

人間は自分で作ったプロダクトに対して見合わないほど高い価値を感じる。作るのが大変だったものほど、その傾向がある。

プロダクト作りにどう活かすのか?

オンボーディングプロセスのなかで、ユーザーに何かしらの行動をしてもらおう。大変すぎず、喜びや報酬を感じられるものがいい。それによって、ユーザーはプロダクトとの間に、固有の“つながり”を感じるようになる。

8. 単純接触効果(親しみの原則)

人間は知っているものに愛着を抱きやすい。

UIにどう活かすのか?

コンセプトや動作、言葉遣い、表示、アイコンなどは、ユーザーにとって親しみやすいものにしよう。マーケティング用の素材やWebサイト、プロダクトにいたるまで一貫したものを提供できている状態が理想だ。

UXライティングにどう活かすのか?

プロダクトの関わる領域や業界の専門用語に沿って言葉を選ぼう。ユーザーが違和感なく快適に利用できる状態を目指そう。

(スタンダードを意識することは大切だ)

9. 機能的膠着

人間はモノを利用するとき、やり慣れた使い方を好む。

ユーザービリティの改善にどう活かすのか?

従来とは違う使い方をするプロダクトを提供している場合、その違いがユーザーにとってハードルに感じられてしまうかもしれない。あらかじめユーザーのつまずくポイントを予測し、課題を取り除いておくようにしよう。

10. 道具の装置(マズローのハンマー)

人間は、より良い道具があったとしても、すでに使い方を知っている道具に過度に頼り、利用し続けようとする。「トンカチを持った人には周囲にあるすべてのものが釘に見える」という言葉のように。  

わたしを“敗者(Loser)”と呼ばないで

人間は負けることを心底嫌がる。その気持ちは「勝ちたい」欲求よりもはるかに強い。負けたくない気持ちを刺激するメッセージによって、私たちは簡単にバイアスのかかった意思決定をしてしまう。

11.損失回避

人間は、100ドルを“得る”よりも、100ドルを“失わない”ほうを強く好む。何かを失うことによる影響を、何かを新たに得ることより大きく感じるからだ。(先ほど言及した授かり効果にも近いかもしれない)

UXライティングにどう活かすのか?

ユーザーが損失を回避できるようなメッセージを意識してみよう(例:お金を無駄にするのはやめよう、など)

プロダクト作りにどう活かすのか? 

期間に期限のあるオファーは緊急度をユーザーに伝えよう。(例:あとX時間でセールが終わります、など)

(ユーザーが損失を回避できるよう手助けしよう)

12. ゼロリスクバイアス

人間は逆効果であると知っていても、確実であること、リスクのないことを愛する。

プロダクト作りにどう活かすのか?

返金保証と無料トライアルを提供し、ユーザーがプロダクトを安心して利用できるようにしよう。

(ユーザーが“リスク”と感じる可能性のある項目は漏れなく記載しておこう)

参考記事:10 lessons we learned (the hard way) when we asked our customers to pay…

13. 確率の無視

人間は強いプレッシャーにさらされると安易にリスクの見積もりを誤る。些細なリスクを過剰に評価する、あるいは無視してしまうのだ。

プロダクトどう活かすのか?

ユーザーとの会話において、少しでも不確定なものがあると、ユーザーはプロダクトを信用したくなくなる。

すべてが透明性高く説明されている状態を目指そう。特にプロダクト内でお金を扱うとき。総額や割引金額、追加料金などは必ず明示しよう。

(あらゆる不確定要素をなくすクことが大切だ)

14. 希少性効果

人間は稀少性が高いもののほど価値を高く見積もり、ありふれているものほど価値を低く見積もる。チャンスを逃すことへの恐れは、FOMO(The fear of missing out)とも呼ばれる。FOMOによって、人間は意思決定しようと感じる。

プロダクト作りにどう活かすのか?

プロダクトやサービスにおいて“期間限定”や“数量限定”のものがあるなら、それをユーザーに伝えよう。大勢のユーザーが同じ商品を閲覧しているなら、それをユーザーに知ってもらおう。

(「残り二席です」と伝えよう)

あるいはBooking.comがやっていたような方法もある。

15. シミュレーション・ヒューリスティック

人間は、何かの出来事が起こる確率を「どのくらい簡単にその出来事を思い描ける」によって判断する。そのため、成功した状態を思い描ける“ニアミス”は通常の失敗よりも悔しく感じる。

プロダクト作りにどう活かすのか?

ユーザーに“もう少しで完了です!”と伝えましょう。それでうまくいかなくても、ユーザーに「すでに完了に近づいている」ことや「完了するチャンスが残っている」ことを示そう。

不合理的なほどに感情的

人間は合理的に意思決定を下そうとする。しかし感情は思っているよりもずっと強力だ。

16. ネガティブバイアス

人間はポジティブな体験よりも、ネガティブな体験をより重視する。ネガティヴな体験や感情は、ポジティブな体験や感情よりも3倍もの影響力を与えると言われている。

プロダクト作りやマーケティングにどう活かすのか?

プロダクトがどのようなネガティブな体験や感情にアプローチするのかを表現し、伝えよう。

(そのプロダクトがどのようなネガティブ体験を解決するかを印象付けましょう)

17. 基準率の誤謬(基準率の無視)

人間は普遍的な情報を無視し、特別なケースにフォーカスする傾向がある。プロダクトの情報を淡々と紹介するのではなく、ユーザーの体験談や事例を伝えよう。

プロダクト作りにどう活かすのか

人を説得したいなら、定量的なデータと個人的なストーリーの両方が必要だ。定量的なデータはオピニオンやメッセージを合理的に説明するためのもので、具体的な事例はオピニオンやメッセージをよりエモーショナルに伝えるのに役立つ。

18. 身元の分かる被害者効果

人間は顔の見えない大きな集団よりも、特定の個人により共感しやすい。

プロダクト作りにどう活かすのか

プロダクトのストーリーを語るとき、一般的なステートメントだけでなく、パーソナルなストーリーのほうがより伝わることもある。

(「地球は水と酸素の存在する貴重な惑星である」という匿名の説明より、「地球は破壊するのにこの上なく最適な美しい惑星である」というキャラクターの発言のほうが共感しやすい) 

19. ライカビリティ効果

人間は「自分と同じものを好む人」を好む傾向にある。例えば、これを読んでいるあなたがトランスフォーマーのファンなら、私はあなたを「友達」と認識する。

マーケティングにどう活かすのか?

見込みのある顧客と近しい課題を抱えるユーザーのコメントや体験談を伝え、プロダクトの強みを表現しよう。なるべく見込みのある顧客と近しい言葉遣いを意識しよう。

20. 焦点効果

人間は、過去の出来事に重きを置きすぎる。そして、それらの出来事をもとに未来の予測を形づくっていく。

21. インパクトバイアス

人間は、未来に抱くであろう感情が、より大きいものであり、より長く持続すると考えがちだ。パートナーと別れた後“あの人を忘れることなんてできない!”と思い込むのと同じだ。

プロダクト作りにどう活かすのか?

ユーザーに「プロダクトやサービスが存在しない状態」を思い描いてもらえるようにしよう。そのうえで、存在しない状態におけるペインを、プロダクトがどう解決するかを知ってもらおう。

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