- date
- 2024.08.08
「セキュリティ」のイメージを変え、親近感を持ってもらう。「Secure SketCH」の公式キャラクター“アンスケくん”の制作を支援
rootは、NRIセキュアテクノロジーズ株式会社(以下、NRIセキュア)が提供する企業のセキュリティ対策状況を得点や偏差値で可視化するサービスである『Secure SketCH』のデザイン制作に伴走しています。今回は、Secure SketCHの公式マスコットキャラクター「アンスケくん」の制作プロセスに関して、共に取り組んだ NRIセキュアのDXセキュリティプラットフォーム事業本部長 の足立道拡さんと Secure SketCHプロダクトオーナー の神野宰平さんにお話を伺いました。
rootのデザインプログラムマネージャー(DPM)である関口、そしてイラストレーター/キャラクターデザイナーのCOUを含む4名でプロジェクトを振り返ります。
目次
「難しい」「分かりにくい」というセキュリティのイメージを払拭したい
関口:NRIセキュアの事業概要と、昨今のセキュリティを取り巻く環境の状況について教えてください。
足立:NRIセキュアは野村総合研究所グループの社内ベンチャー第一号で、2000年に設立されました。コンサル、診断、監視、製品、教育という5つの軸でセキュリティ事業を展開する総合セキュリティ企業です。
近年、「ランサムウェア攻撃」「サプライチェーン攻撃」といった言葉をニュースなどで耳にする機会が増えています。特に、クラウドやAPI、生成AIなどを活用する機会が増えたことで、セキュリティリスクはますます多様になっています。
その一方で、日々お客様と接する中でセキュリティに関する声として「難しい」「面倒」「分かりにくい」といった声を聞くことが多くありました。ビジネスの現場においては、自社のセキュリティ実態がどうなっているのかを分かりやすく、迅速に把握することが困難という状況が続いていました。
また、自社のセキュリティ対策状況は、他社と比べてどうなのか。うちの会社のセキュリティはどうなっているのか?という経営者からの問いに、定量的な回答をしたくてもできないというジレンマに悩んでいるセキュリティ担当者の声をなんども聞いていました。こうした課題を解決すべく、「Web上で簡単にセキュリティ評価・対策ができる」というコンセプトで、Secure SketCHを開発・提供してきました。
関口:なぜ、Secure SketCHの公式キャラクターを制作することにしたのでしょうか?
神野:Secure SketCHを立ち上げた経緯と関連するのですが、多くの人はセキュリティに対して「難しい」「分かりにくい」「面倒」といったイメージを持っています。そのイメージを払拭し、セキュリティやSecure SketCHに対して親近感を持ってもらうのに、キャラクターがそれを手助けしてくれるのではないかと思ったんです。
公式のキャラクターを通じて、柔らかさや親しみやすさを醸成することでSecure SketCHに関心を持っていただき、より多くの人がサービスを使うきっかけになったらいいなとも。それに加えて、お客様、パートナー、エンジニアや事業メンバーなどの作り手のコミュニケーションの活性化にも繋がっていくのではないか、という狙いもありました。
関口:キャラクター作成にあたって、こだわったポイントを教えてください。
神野:こだわったポイントは2つあります。1つ目が親近感と信頼感の両立です。それを実現するために、キャラクターの立ち位置をセキュリティについて学んでいく“初心者ポジション”に設定しています。
そして、キャラの見た目が、幼すぎず、年上っぽくも見えないようにもしました。友達や賢い同級生のようなポジションであれば、セキュリティの難しさに対する親近感と、サービスへの信頼感を両立していけると考えていきました。
2つ目が製品の特徴を体現していることです。Secure SketCHは評価(守り)と対策実行(攻め)のセキュリティ業務をDX化するSaaSであるため、攻守の両方の特徴を持ち、人を先導する生き物をモチーフにすると、コンセプトに合うのではないかと考えていきました。
「独自性」や「親近感」を軸にモチーフを100種類リストアップ
関口:今回、アンスケくんのモチーフ選定から制作はイラストレーターのCOUさんを中心に進めていきました。キャラクターデザインを提案するにあたって意識した点をCOUさんに聞きたいと思います。
COU:1つ目は、キャラクターを制作する目的をチーム内で明確にすることです。ただカッコいいキャラや可愛いキャラを作るのではなく、そのキャラクターが企業にとって、どのようなプラスの役割を果たすべきなのかを意識しました。デザインをジャッジしていく工程に進んだ際に、チームでの判断がブレないように、まずはじめにキャラクターを制作することで解決したい課題(目的)をメンバー間ですり合わせるための資料も含めて、提案を進めさせていただきました。
2つ目はエンドユーザーとの関係性です。キャラクターがエンドユーザーに対して、どのような立ち位置を取るかで、そのまま企業に対しての印象も変わるため、この部分はより重点的に提案させていただきました。キャラクターがエンドユーザーと同じ初心者ポジションの場合や、何でも教えてくれるコーチのポジションなど、立ち位置に合わせたキャラクター性を持った デザインを、それぞれのメリットもわかるかたちで提案いたしました。
3つ目は、モチーフになる生き物の選定です。今回は、ゼロベースから提案させていただけるかたちでしたので、はじめにNRIセキュアやSecure SketCHの特徴をヒアリングさせていただき、様々な生き物をリストアップしました。その中で、企業と製品の特徴にマッチしていて、キャラクターを制作する目的にも沿う生き物を4種選定し、それぞれの生き物に対して複数案ラフデザインを制作するかたちで提案を進めていきました。
神野: COUさんのモチーフとする生き物の選定は本当にお見事でした!
最初は、「親しみやすさだから犬」「守るイメージだから亀」などと少し安直に会話していたのですが、COUさんにリストアップしていただいた100種類ほどの生き物の候補の中から、犬、馬、キリン、アンキロサウルスの4種類まで候補を提案いただきました。
攻守の両方の特徴を持った生き物、人を先導する生き物ということで、結論としてアンキロサウルスに決定しました。アンキロサウルスは、体をボコボコとした鎧のような体で身を守り、こん棒状の尻尾で攻めることができる恐竜です。「評価(守り)」と「対策実行(攻め)」の両面で企業・組織のセキュリティ対策を支援するSecure SketCHの理念を体現するモチーフを選定できたと感じています。
モチーフの候補もそうですが、アンキロサウルスに決まってからも、ベイビーや好奇心旺盛、セキュリティ新隊員、 セキュリティエース、探検家などの、キャラクター性のパターンも出してくれたからこそ、オリジナリティ溢れる、本当に良いマスコットが生まれたと思っています。
関口:単純にキャラクターを作るという話ではなく、Secure SketCHというプロダクトの想いや、rootとしてもプロダクトデザインをサポートする中で感じている部分も反映できると思ったからこそ、COUさんにキャラクター制作をお願いしました。一番良い形でアウトプットできるのではないか、という考えがありました。
足立:NRIセキュアで、本格的なキャラクターを制作するのは初めての試みでした。真面目な雰囲気の会社が柔らかい雰囲気のキャラクターを制作するという挑戦の中で、rootさんが持っている感覚やノリもそうですし、何よりテーマに合った人を柔軟にアサインいただけるのが凄いところだと思いました。目標に対して最適なスペシャルチームを組成できる。そこがrootさんの最大の良さであり、「一緒にやりたい」という決意につながりました。
関口:実際にrootとプロジェクトを進めていく中で良かった点はどこにありましたか?
神野:最初は「キャラクター作りたいよね」というアイデアベースで始まったプロジェクトでしたが、要件定義の策定などアイディエーションの部分から伴走いただいたことで、上手く形にすることができました。
また、関口さんは日頃からプロダクトデザインの部分をサポートしてくださっている気心知れている方でもあります。お互いに肩肘張らず、活発に意見を交わせられたのも良いものを作れた要因なのかなと思っています。
今の時代、生成AIで簡単にキャラクターを作れるかもしれないんですけど、キャラクターに多様な人の考えや魂を乗せられるのは手作りだからこそです。その点でも、一緒にやれてよかったです。
足立:rootさんは制作の過程を共有してくれるんです。例えば、アイデアが何パターンかあったとき、最終的には1つに決まるんですけど、決まるまでの過程も共有してくれる。アンスケくんのデザインが決まっていく過程に、チームメンバーが部分的に触れる機会があることで親近感を覚え、意思決定に関われた感覚も得られるんですよね。その結果、チームメンバーが笑顔になる。アンスケくんを社内に説明していくプロセスで「こんなに楽しい報告を聞ける時間は最高です」と経営層やステークホルダーに言ってもらえたのは、思考の過程を共有することができたからだと思います。
制作プロセスをすべて開示し、いろんな人の意見を取り入れる
関口:プロジェクトを進めていく過程で印象に残っているシーンはありますか?
COU:ターゲット層であるビジネスパーソンの皆さんにはお子さんがいらっしゃる方々も多いとお聞きしていたので、お子さんに興味を持っていただければ、自然と企業に対しての印象もプラスに感じてもらえるのではないかと考え、お子さんにも愛されるようなフォルムのデザインを意識しました。実際にデザインを進めていく中で、NRIセキュアの社員の方々のお子さんやご家族の方の声も聞くことができ、そのような過程を通してデザインを進めていくことは新鮮で、とても印象に残っています。
神野:いろんな人にアンスケくんを紹介する機会があったのですが、妻に見せたとき「かわいいね」と一言目に言ってもらえました。紹介した全ての人がまず「かわいい」と言ってくれたので、本当に良いものができたんだと、すごく誇らしかったです。
また、モチーフにする生き物の選定のところで、ポーズの種類の豊富さも印象に残っています。3〜4種類のポーズを作れればいいかなと当初は思っていたのですが、COUさんが最終的に40種類くらいのポーズを提案してくれたんです。挨拶や、いいね、記入しているパターンなど多数のポーズを作れたのは感動というか、驚きでした!
関口:個人的には、ディテールに関してすごく議論したのが印象に残っています。牙を出すのかどうか、背中をどれだけ見せたら甲羅を背負っているのか分かるなど、ディテールはすごくこだわったなと思います。甲羅の角度や背中のボコボコが何個あればいいのか、お尻のハンマーもどれくらい見えたらいいのかなどを話し合ったのを覚えています。
神野:基本的にデジタルデータしか使わないので、背中の部分はいらないと思っていたんですけど、将来的にブランディングやプロモ用の人形を作ることも想定して、バックやサイドのディテールを仕上げてくださったのも本当に良かったなと思っています。
関口:制作プロセスを共有しながら進めたのは特徴的でしたよね。デザインやイラストを制作する際、アウトプットだけを共有する進め方も多いのですが、今回はプロセスをすべて開示して巻き込みながら一緒に作っていきました。そこがプロジェクトにおいてもすごく重要なところだったのかなと思っています。
印象的なシーンについて、足立さんはいかがですか? アンスケくんの命名のプロセスをぜひお聞きしたいです(笑)。
足立:アンスケくんの命名に関しては、Slackで神野から「名前を決めてもらえないでしょうか?」と連絡をもらったんです。当初、セキュロンという名前の候補が挙がっており、「それでいいんじゃない」って言おうと思ったのですが、せっかくの機会なので、自分でも名前を考えてみようと思い、自分の言葉や想いに立ち返って考え始めました。
「セキュリティを民主化したい(みんなのものにしたい)」という想いから親しみやすい名前や響きが良さそう。日本製のセキュリティSaaSなので、ルーツは日本であることを表現したいなど、いろんな要素や想いを書き出していったんです。その中で、私の子どもが恐竜好きだったこともあり、アンキロサウルスがすごくヒットしました。セキュリティが軸なのですが、「セキュ」という響きよりも、安全・安心を類推できる「アン」を軸にすることにしました。それから、私の世代はコロ助というアニメキャラクターが流行っていて、Secure SketCHは企業のセキュリティ対策実行の助っ人という側面もあるため「スケ」をもう一つの軸にすることで、最終的にアンスケくんという名前になりました。
関口:セキュロンだと馴染みづらいかもしれない、という不安感はありましたよね。今はアンスケくんを連呼しているので馴染んでいる部分もあるのですが、それでも最初に聞いた時に耳に入ってきやすかったのと可愛さがあるなと思ったんです。親しみやすい名前だなと思い、アンスケくんに関しては満場一致で「良い」という反応でした。
販促からブランディンングにまで役割が拡大
関口:アンスケくん公開後の反応はいかがですか?
神野:NRIセキュアでは、ブランドガイドラインの規定上、キャラクターの制作には経営陣の承認が必要という決まりがありました。そのため、アンスケくんを公開するにあたって、制作の前段階から、いろんな方々へ説明して、承認をいただく必要がありました。
説明の度に「どういう反応をされるのか?」とドキドキしたのですが、経営陣から「かわいいね」「いいね」と言ってもらえたのは、すごく印象に残っています。
足立:アンスケくんというキャラクターを子どもと共有できたことで、「お父さんの会社は、こういうキャラクターもいるんだね」と言ってもらえて。子どもに会社のことを少し知ってもらうという意味においても、すごく貢献してくれたなと思っています。
関口:ありがとうございます。最後にアンスケくんの今後の展望も教えてください。
神野:いろんな可能性が秘めていると思っています。例えば、Secure SketCHは1000点満点のスコアでセキュリティの評価ができるのですが、スコアが下がるとアンスケくんが悲しい顔をして、上がると笑顔になるみたいな。そういったものが、プロダクトに反映されると面白いんじゃないかなと。
また、アンスケくんを通して、これまで接点を持てていなかった企業のお客様にも関心を持っていただくきっかけにできたらなと思っています。採用面においても、学生の方々に知っていただくきっかけになったら嬉しく思ってます。
足立:セキュリティ民主化の過程でこれからセキュリティに取り組む方や今後のグローバル展開など、NRIセキュアが未知の世界に行く、新しい可能性を切り拓いていく。そんなときに、アンスケくんというキャラクターがいろんな形で役に立ったり、助けてくれたりするんじゃないかという期待を持っています。
関口:最初はプロモーションの一環で始まったものが、よりブランディング要素が大きくなってきている。アンスケくんがSecure SketCHだけでなく、NRIセキュア全体のブランド価値向上に寄与する役割を担い始めているのは、このプロジェクトの一番のキーワードかなと思っています。改めて、ありがとうございました。
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