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事業成長に貢献するためにデザイナーが持つべき3つのマインドセット #WhyDesignTokyo

2019年2月9、10日、『UX道場』を運営するAdobeとウェブメディア『UX MILK』が主催するデザインカンファレンス『WHY DESIGN TOKYO 2019』が開催されました。本イベントは「WHYから始める思考」をテーマにデザイナーの価値向上を目的としたグローバルデザインカンファレンス。

記念すべき第1回目となった2019年では、「受託Web制作・デザインの価値を変える実践的アプローチ」をテーマに、2日間に渡り様々な講演やワークショップが開催されました。

本イベントで、root代表の西村和則が『事業成長を支えるデザイナーとしての心得』と題したセッションを担当。セッションでは、「デザインを通して、事業成長に貢献する」を掲げて活動してきたrootが蓄積してきたデザイナーやデザイン会社が持つべきマインドセットを共有しました。

なぜデザインは事業成長への貢献が必要なのか

セッションの冒頭で、西村は自己紹介の後に続けて「なぜ、デザインは事業成長への貢献が必要なのか」という前提を整理しました。

西村:2018年に発表されたデザイン経営宣言では、「インターネットに接続された製品やサービスにおいては、顧客体験の質がビジネスの成功に大きく影響を及ぼす」と語られています。2000年以降の産業ではインターネット(ネットワーク)が前提条件として組み込まれ、現在ではIoTなどあらゆる物が接続される時代になっている。つまり、デザインは事業成長に直結する手法として改めて注視されているのです。

デザインが担う役割の変化や、デザイン経営宣言が発表されたことを含め、デザイナーには、この社会ニーズの変化に適切に応えることが期待されています。それぞれのデザイナーがこの期待に自覚的になり、応えられる存在へとシフトしていくことが求められると、西村は考えています。

西村:デザイナーが社会の変化に応えるには、ビジネスデザインやサービスデザインといった上流から実制作まで、幅広いデザイン業務を理解し、実行できなければいけません。これまでのように単に手を動かしているだけではなく、事業成長に貢献する存在として自身を再定義することが求められている。今日はその期待に応えるための心得をご紹介していこうと思います。

納品がスタートになる時代のマインドセット

1つ目のトピックは、「納品が始まり」というデザイン会社が持つべきスタンスについて。受託制作の場合、納品がゴールでした。しかし、現代のデジタルプロダクトでは、「納品」を「完成」と捉えるのは難しくなってきています。

西村:ジョン・マエダ氏が毎年発表する『Design in Tech Report』では、「コンピューテショナルデザイン(=インターネット以降のデザイン)は、完成が不可能で、常に進化し続ける」と定義されています。クラシカルデザインが扱っていたハードウェアは、量産という完成がありました。一方、デジタルプロダクトは随時配信され、常に変わっていく。納品をゴールにしてしまうことは、そもそも矛盾があると考えています。

また、インターネットに接続されるデバイスの多様化も、デザイナーのマインドセットに大きな影響を及ぼしています。2010年以降PCからスマートフォンへと主流デバイスが変わり、人がオンラインを介して接触する情報量も爆発的に増えてきました。

情報が増える中で、商品やサービスが選ばれるためには“差別化要因”が必要です。情報爆発の時代において、差別化の要因となるのは、デザイン経営宣言にもある“顧客体験の質”になる、と西村は語ります。

西村:より良い顧客体験を提供し続けるには、プロダクト自体も継続的により良いものへと変化を重ね続けなければいけません。つまり、デザイン会社のクライアントにとっては、納品ではなく納品した後にどう動くかが市場での勝ち負けを決める。「納品がはじまり」なのです。rootにとって、クライアントのプロダクトの制作やリニューアルに関わるのは、あくまでも入り口。納品して初めてスタートラインに立ち、クライアントの事業成長に伴走し、自走できる状態を作るのが我々の定義するデザインです。

rootが重視するマインドセットを共有した上で、これまで実際に“伴走”してきた事例を紹介。2015年に携わった大手デジタル広告代理店の案件では、当初広告管理ツールのUIをリニューアルするプロジェクトとしてスタートしました。

しかし、この案件は単なるUIデザインの仕事にとどまりませんでした。クライアントにはインハウスの制作体制がなく、これから体制を構築するタイミングでした。デザイン、開発含めてプロダクト開発のサイクルが確立されていない状態で、rootはいかに内製でプロダクト開発を効率よく進められるかの体制作りにも尽力しました。

西村:プロジェクトが始まる前は、エンジニア主導で機能要件だけが決まり、機能先行のインターフェイスが実装されていました。また、プロダクト開発の経験がなかったことで、担当するPMもデザインをどのタイミングで行いプロダクト開発を進めていくべきか適切な判断ができていなかった。

そこで、まず業務オペレーションを整理。ユーザーストーリーを軸に機能や要件を整理し、それを画面設計と開発に落としていくために、コンポーネントリストや、デザインガイドライン、プロダクトとビジネス側の関係構築などを整備。内製でプロダクト開発が進むようにあらゆる面をサポートしていきました。

領域横断するデザイナーの必要性

2つ目のトピックは、個人のデザイナーに向けた「受け身からの脱却」です。

デザインツールや技術が進化し、手を動かすデザインは簡略化が進んでいます。この流れの中で、デザイナーは単に“手を動かす”だけではなく、領域横断的なスキルやマインドが必要になってきています。

西村:デザイナーの活動領域を整理してみると、着実にその範囲は広がっています。UI Designerのような、“手を動かすこと”はほんの一部でしかありません。もちろん、制作スキルは大切です。“手を動かして作れること”は他の職種にない強い武器になる。ただ、今後は制作スキルで突き抜けるには相当なスペシャリティが求められます。

激しい競争環境の中で生き残るには、デザイナーは単に手を動かすだけでなく、様々な領域の知識を横断的に身につけることが求められていく。スペシャリストではなく、ゼネラリストなデザイナーが必要とされているのです。

ゼネラリストなデザイナーに求められる要素を、西村は6つの項目に分けて定義します。

rootでは、この領域横断的なスキルを効率よく学ぶため、メンバーの担当するプロジェクトやロールが多様になるようにアサインし、領域を横断していきやすい仕組みを構築しています。

西村:事業規模も、スピードも、ロールも異なる経験を積むことで、それぞれ得られる知見があります。たとえば、UIを経験していれば、UXを考える上で、UIの工程における負荷も検討できる。大企業で既存の組織構造を学べば、それをスタートアップでの組織作りに活かせるでしょう。逆にスタートアップからはアジャイルな開発スタイルや少人数での意志決定プロセスを大企業に転用できる。こうした横断的な経験を意図的に広げ活用しています。

西村:肝となるのは、全てを自分でまかなおうとしないことです。デザインという領域は、ひとりで担うにはあまりにも大きすぎる。ただ、拡張されるデザイン領域で何が行われているかを知り、自分の強みを見つけて、そこに軸足を置き、周囲と連携して成果を上げていくことが必要です。

デザイナーはデザインの伝道師へ

3つ目のトピックは、組織に対し“デザイン文化”を根付かせる「チームをスケールさせる」です。

西村:デザイン思考のようなフレームワークによって、デザインプロセスにデザイナー以外が関与することが多くなってきています。その中でデザイナーが担うべきはデザインプロセスの実践ではなく、組織にデザインをインストールする役割だと考えます。

西村:デザイナーは今後、デザインの伝道師になることが必要になってくると考えています。プロダクトが作られるあらゆるフェーズに参加し、横断的にファシリテーター的役割を担い、デザインを中心に据えた組織を作る。それが「チームをスケールさせる」ということです。

自分以外の人がデザインを活用できる状態生み出すことが、“デザインの伝道師”としてのデザイナーの役割。ここで西村は過去にrootが“チームをスケールさせる”役割を担った例として、あるスタートアップへの伴走支援を挙げました。

西村:デザインパートナーとして参画し、まずはデザインパートを担いつつ、創業者にデザインの重要性を伝えました。次に、チームにデザインプロセスを導入。デザインドリブンにプロダクトと向き合う組織を作った後、インハウスのデザイナーを採用。デザイナーを教育し、内製化を進めていきました。

最後はインハウスのデザイナーがデザインの伝道師として成長し、社内にデザインの文化を作りあげていく存在になってくれました。これは、デザインプロセスや文化を再現可能な仕組みとし、組織の中にインストールできたからです。

デザイン会社の価値は、デザインを応用可能な手段とすること

3つの心得を語った後、セッションの最後に西村はデザイン会社の価値がどう変化していくかについて語りました。

西村:多様なデザインを経て得た経験を、いかに体系化して応用できる状態を作れるか。デザイン会社の価値と差別化要因はその蓄積になっていくと私は考えています。再現可能な要素としてデザインが求められる中、自分たち自身が再現できることは必須です。デザインを応用可能な手段として、世の中の課題解決に適応する存在。これが我々の考えるデザイン会社の価値です。

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