- date
- 2017.02.16
UI/UXデザインが投資の価値を高める – Google Ventures 世界初のVC内デザインチーム
この記事はプロトタイピングツールInVisionのブログに掲載されたGoogle Venturesのデザインパートナーでデザインスプリントの共著書をもつJake Knapp氏のインタビュー記事を公式に許可をいただき翻訳したものです。
もしもグーグルの20億ドルのベンチャーキャピタルファンドであるGoogle Ventures(以下、GV)がなければ、世界のもっとも革新的なスタートアップの多くが今日の姿にはなってはいなかったでしょう。彼らの 300社あるポートフォリオには、Uber、Slack、DocuSign、Mediumなどが含まれます。 私たちは彼らがInVisionコミュニティの一員であることについて、とても光栄に思っています。
GVのデザイン・パートナーは、マーケティングからエンジニアリング、採用、そしてもちろんデザインまで、すべてのポートフォリオ企業と一緒に働いています。 私たちはGVデザイン・パートナーのジェイク・ナップに、彼が共著したことで知られている5日間のデザイン・スプリントについて話を聞きました。
GVでのデザインチームはどのような構成になっているのでしょうか?
私たちには5人のデザイン・パートナーがいます。 「パートナー」という言葉はベンチャー業界特有のものですが、私たちはその言葉を真剣に捉えています。デザインチーム内部では、全員が対等なパートナーシップを結んでいます。それと同じように、スタートアップとも対等なパートナーとして働いています。
ビル・マリスはGVを設立したとき、デザインに対して大きな賭けをしました。 2009年当時、ブレーデン・コウィッツをベンチャーキャピタルでは初めてのデザイン・パートナーとして迎えました。 現在5人のデザイン・パートナーがいることはベンチャーキャピタルの世界では稀なことです。
デザインこそが投資の価値を高めてくれる
私たちはデザインこそが投資の価値を高めてくれると信じているので、多くのデザイン・パートナーと共に働いています。 GVがスタートアップに投資するときは、そのビジネスが今よりも何倍にも大きくなると信じています。
デザインは創業者の描くビジョンを、現実の世界に完璧にフィットする製品やサービスへと形にすることができます。なので優れたデザインは、優れたビジネスなのです。
チームの構造はどのようになっていますか?
私たちはあらゆる形で、デザインを使って投資先企業を支援しています。コーチング、アドバイス、採用など多岐にわたります。特に、私たちのデザインスプリントのプロセスは、スタートアップとの共同作業においてもっとも重要な部分です。スタートアップが最も大きな課題に取り組む上で最良の方法です。
スプリントの大まかなのコンセプトは、小さなチームを作り、1週間のスケジュールを完全に空け、「課題」から「テスト済みの解決策」へと迅速に進んでいくというものです。月曜日には、課題のマッピングをします。火曜日には、各個人が解決策をスケッチします。水曜日は、どのスケッチが最も優れているかを決めます。木曜日は、現実的なプロトタイプをつくります。そして金曜日に、そのプロトタイプを5人のターゲット層にテストします。実際のマーケットでプロダクトを見ることができるので、未来に早送りをしているような感覚です。
デザインは創業者の描くビジョンを、現実の世界に完璧にフィットする製品やサービスへと形にすることができます。
どのようなデザイナーがデザインチームを構成しているのでしょうか? また、お互いどのように報告したり、協力しあっているのでしょうか?
デザイン・リサーチ・パートナーのマイケルは…. リサーチャーです! ブレーデン、ダニエル、ジョンと私はそれぞれGmail、Digg、Youtubeなどで指揮した経験のあるプロダクトデザイナーです。それぞれが専門を持っています。インタラクションデザイン、ブランド、ライティング、そしてファシリテーティングなどです。
私たちはお互いに仲間ですから、報告の仕組みはありません。災難が起こりそうに聞こえるかもしれませんが、実際にはうまくいっていますよ。
なぜこのようなチーム構成にしたのですか?
ときにスプリントで一緒に働くことがありますし、仕事を分割して個別に働くこともあります。私たちが真似できるようなモデルはありません。他のVCのデザインチームを見て、「あんな感じでやってみよう!」と言うことはできないのです。実験して、レビューをして、適切な方法を作り上げていく必要があります。
どのようなデザイン文化があるのでしょうか?
私たちはたくさん 「ノー」と言いますし、本当に重要な数個のことに集中するようにしています。 常に実験と改善を繰り返す姿勢を共有しています。 現状に固執することはありません。これまでやってきた方法だからといって、それを続けることもありません。上手くいっていないことを止めたり、全員が同意していないプロジェクトに対してリスクを取っていくことを恐れることもありません。
私たちはたくさん 「ノー」と言いますし、本当に重要な数個のことに集中するようにしています。
基本的に、お互いがとても信頼しあっている仲なんです。もっと正直かつダイレクトな発言をするためにも努力しています。具体例は、私たちの「心配事パーティー」に関する記事をご覧になってください。
どうしてこのような文化になったのでしょうか?
ブレーデンは最初のデザインパートナーとして、チームの雰囲気をつくりました。彼はチームメンバーの採用と、実験を大事にするという文化を築く責任を担っていました。そして、多くのことが最終的にはビルへと行き着きます。彼はいつもこう言います。「みんなを信じてる。俺たちのスタートアップを成功させよう」とね。
そのチーム構成の最大のチャレンジはなんでしょうか?
意外かもしれませんが、意思決定ではありませんね。私たちはコンセンサスを目指すのではなく、お互いのことを信頼したうえでそれぞれのことをしています。2人か3人で働くこともありますが。
大きなチャレンジは、常に何も決まっていないような感覚があることです。自分たちが何をすべきか誰も教えてくれません。先ほども言いましたが、そういう場面で「心配事パーティー」が活躍するのですが。
ジェイクは、どのようにして今に辿り着いたのでしょうか?
私は小さい頃からコンピューターオタクでした。中学校にいたときにHyperCardというプログラムでゲームを作ったところから始まって、高校ではPhotoshop(まだレイヤーがない頃から!)とウェブデザインをやりました。でも何を思ったのか、大学では絵を描く勉強をしました。でも自分は本当の芸術家ではなかったので、絵画の専攻をやめて、基礎的な美術の学位を取得しました。
私はこれまで、趣味としてデザインを楽しんでいました。それを仕事としてやろうと決心して、最初は実験を通して学んでいきました。その後、MicrosoftとGoogleの優れたメンターの指導を受けました。そして、未だにデザインを学んでいますよ。GVのブレーデン、ダニエル、ジョン、マイケル、そしてスタートアップで働くスマートな人たちからです。
もしインターネットがなかったら、なにをしていると思いますか?
本を書いているでしょうね。難しいことではありますけど、とても楽しいですよ。
あなたのデザインプロセスの中で最も強力な部分は何だと思いますか?
スプリントですね。驚くことでもないでしょうが… なにせ、それがこの本の内容なのですからね!
スプリントは、デザインを使って急速な進展を実現するすごい方法です。スプリントはスタートアップと一緒に働く機会も与えてくれるので、私たちも驚くほどの経験を積み重ねることができます。
スプリントは、デザインを使って急速な進展を実行できるすごい方法です。
過去4年間で100社以上の企業と働いてきました。問題を一緒に掘り起こして、意思決定の過程を目の当たりにして、そして顧客調査を見てきました。素晴らしい学びの機会でした。
GVデザインチームの1日はどんな感じですか?
スプリントの週であれば、スプリントのプロセスを理解していれば、私たちが何をするか正確に予測できますよ。スプリントのない週には、スタートアップとのオフィスアワーや、ライティングをしていたり、gv.comのような社内プロジェクトをしているかもしれません。
スプリントがどのように行われているか教えてもらえませんか?
スプリントは5日間のプロセスです。チームは大きな問題を持ち込み、スケジュールを完全に明確にして、アイデア、難しい決定、現実的なプロトタイプの一連のステップを進んでいきます。
月曜日はチームのみんなであらゆる問題のマッピングをして、目的を定めます。全員で基礎となるものをつくりあげるのです。そして、当然ながら優先付けを行い、チームリーダーはその1週間で集中すべきことを明確にひとつだけ決めます。
スプリントをやれば、未来が見えてくる。
火曜日は解決策を出していくのですが、ここでブレインストーミングをすることはありません!各個人がそれぞれ解決策をスケッチします。この作業は静かに行われ、集中するのに十分な時間的猶予を持たせます。
水曜日には、チームは競合する解決策のなかから「スティッキーデシジョン」と呼ばれるプロセスを決定します。これはサイレントレビューと構造化されたディスカッションを組み合わせています。セールスピッチを最小限に抑え、すべてのアイデアが公平(かつ効率的)に評価されるようにするために行います。最終的にはチームリーダーが決定を下すのですが、それはチームのみんなによって報告がされます。厳しいように聞こえるかもしれませんが、こうすることで後になってとやかく言うことはなくなりますし、デザインに対して客観的でいることができます。
GVでは、よくプロトタイピングのためにInVisionを使っています。
木曜日には、選ばれたスケッチが現実的なプロトタイプになります。ここからチームはオーシャンズ11モードに切り替わります。それぞれが特殊なスキルを持っているので、タスクを分けて、仕事に取り掛かります。あらゆる意思決定とデザインの流れはその週の早々に明確になっているので、わずか数時間ほどで現実的なプロトタイプを作成することができます。
そして最終の金曜日に、チームは1対1の調査のために5人の顧客を招待します。別室では、スプリントチームがビデオを眺めながらメモをとります。その日が終わる頃には、一定のパターンを把握できるでしょう。もちろん、初めてのテストでチームが正しい解にたどり着くとは限りませんが、スプリントの終わりには驚くほど明晰になっている感覚が得られます。アイデアがヒットしたかどうか、または改善する必要があるかどうかにかかわらず、次に何をすべきか理解できているはずです。それはとても強力なことです。
デザインスプリントではInVisionをどのように使用していますか?
私たちはよくプロトタイピングのためにInVisionを使っています。 InVisionで本当に気に入っているのは、スプリントチームが同じプロトタイプを分割できるという点です。それぞれが異なるデザインツール(PhotoshopやSketchなど)を使用する場合があるのですが、InVisionではこれらの異なるパーツをつなぎ合わせることができます。
その後スプリントが終了すると、同じプロトタイプを改善したり、共有したり、議論したりすることができます。まさに、InVisionはプロトタイプが成長する余地を与えてくれています。
InVisionはプロトタイプが成長する余地を与えてくれています。
今日のデザインにおける最大の問題は何だと思われますか?
ノンデザイナーの多くは、「クリエイティブ」が特別な人たちのものだと思っているので、デザインを恐れたり拒絶したりします。デザインは単に問題解決の方法です。デザイナー、エンジニア、マーケティング担当者、プロダクトマネージャー、顧客サポート、創業者など全員が、デザインプロセスの一員でなければなりません。より良い仕事とより良い製品が成果として得られるでしょう。
デザイナーは、ビジネス戦略の開発においてどのような役割を果たすべきだと思いますか?
デザイナーがビジネス戦略に対してできることは多くあります。それは人間中心のデザインに関することのような典型的な答えだけではありません。私たちデザイナーには、ビジネス戦略を迅速にテストできる力があります。プロトタイピングとリサーチを通して、その戦略が市場に投下される日まで早送りして、それが正しいかどうかを確認することができます。
あまりに多くの戦略が、会議室やエクセルシートの中だけで作られています。スプリントを体験すれば、未来を見通すことができるでしょう。それはデザインを通じてのみ可能なことなのです。
写真:Peter Prato
原文: INSIDE DESIGN: GOOGLE VENTURES
文中のプロトタイピングツール: InVision
翻訳者: 佐藤ゆき
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