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シェアラブルデザイン:Snapchatの「わかりづらいUIデザイン」はなぜデザインの成功と言えるのか?

この記事はGreylock(VC)でパートナーを務めるJosh Elman氏のブログ記事を公式に許可をいただき翻訳したものです。


多くの人が、Snapchatのインターフェイスに戸惑っている。年長者の人たちをからかうつもりはないが、ある年齢を超えた人の多くが、フェイススワップ機能のようなSnapchatの基本的な使い方を理解するのに苦労しているようだ。Snapchatの使い方に関して何人から愚痴を聞いたか分からない。彼らは訴える。「あー、使い方が分からない。なんでこんなに複雑なんだよ?」

Snapchatのデザインにおける難解さはバグではなく、むしろ一つの機能であると私は言いたい。Tinderと同様に、そのデザインはユーザーが積極的に参加し、自分の経験を他人とシェアすることをうながすように設計されている。そして、その点こそSnapchatが成功に至った重要なポイントなのだ。

Snapchatは、私が「シェアラブルデザイン」と呼んでいるものの最高の例の一つであるといえる。「直感的なデザイン」こそが究極の理想であると考えながら育ってきた人にとっては、この新しいアプローチは少々気に障るものだろう。だが、そのデザインの仕組みを一度理解すれば、完全に理にかなったものであることが分かるはずだ。

直感的デザイン革命

むろん直感的デザインの価値を落とすつもりはない。実際、直感的デザインが1980年代に登場した際、それはとてつもなく大きな前進だった。コンピュータインターフェイスが複雑で非直感的で、使えるようになるには多くの訓練が必要とされていた1960、70年代の前世代と比較すれば特に。前世代のインターフェイスでは、長いリストに書かれた大量のコマンドを暗記し、その都度適当なコマンドを思い出す必要があった。みんな、マニュアルを調べる人手を借りずにどれだけのコマンドとパラメーターを暗記することができたかを大いに誇っていたものだ。

グラフィカルユーザインタフェース(GUI)の登場は、大きな進展だった。決められたコンピュータルームで、チームで仕事をしてたメインフレームやミニコンピュータのユーザーとは違って、PCのユーザーは家や自分のオフィスで、自分のコンピュータとその中のソフトウェアを理解しようとしていた。彼らは、新しいソフトウェアの使い方を学ぶためにマニュアルを読んだり、授業を受ける時間的な余裕はなかった。デスクに着いて、スプレッドシートのプログラムのようなソフトウェアを立ち上げれば、すぐに使い方が分かることが理想だった。メーカーがこうした市場向けにつくるソフトウェアは、ユーザーが使い方を自分で発見できるくらい直感的である必要があった。


マイクロソフトのエクセルの昔のツールバー

たとえば、マクロソフトは、どうすればソフトウェアをより直感的なデザインにできるかを知るために多くの時間を費やした。美的な点において彼らの仕事がどれほど成功したかという部分は議論の余地があるかもしれないが、エクセルなどのプログラムが市場で成功を収めた理由は、ユーザーがあちこちクリックするだけで機能を理解できるといったやり方がたくさん導入されていたからだ。ツールバーやメニューバーなどといったものは、そうした背景があって生まれたものだ。見た目は悪かったが、うまくいった。なぜなら直感的だったからだ。まあ、簡単なものじゃない場合には、みんな本を買って少しずつ学んでいた。私は Catapult Pressという会社で一度夏休みにインターンシップをやったことがある。『Microsoft Step by Step books』という本の「テスター」をやって、エラーがないかどうか本の隅々までチェックするという最も骨の折れる仕事をしたことがあるので、かつての状況はよくわかっている。

当時、Appleは厖大な時間を費やしてどうすればオペレーティングシステムを直感的なものにできるか探求していた。1987年、Appleはヒューマンインターフェイスガイドラインの概要を記載した本を出版した。その本はマッキントッシュの時代、さらにインターネットの時代になっても大きな影響を与え続けた。

こうした仕事のすべてが、1980年と1990年代の優秀なソフトウェアデザイナーとプロダクトデザイナーによってなされたリサーチに基づいている。ドン・ノーマンの『Design of Everyday Things』は、インダストリアルデザインが中心の内容であったにもかかわらずソフトウェアデザイナーの間で多大な影響力をもっていた。ブレンダ・ローレルの『The Art of Human-Computer Interface Design』は1990年に出版された本だが、今も私の本棚にある。こうした本は革新的なもので、その影響は今日まで続いている。

モバイルは、すべてを身体的かつソーシャルなものにした

2008年、テックの世界がモバイル中心にシフトし始めたとき、すべてが変化した。突然、ソフトウェアデザイナーはもはやデスクに座って自分の仕事をする人々をターゲットにしなくなったのだ。彼らはアプリをつくっていた。そのユーザーはスマートフォン上にいて、世界のあちこちを移動し、友人や家族、クラスメート、同僚といった人々と共に過ごすことが多い。


スワップやズーム、タップといったジェスチャーは自然で人間的だ。

モバイルへのシフトによって、インターフェイスデザインにおける二つの補完的な新しいトレンドが生まれた。一つは身体的ジェスチャーの取り込みだ。マウスとキーボードで操作するのではなく指でソフトウェアを触るのだから、ずっと人間的な感覚が得られる。

子供でさえ理解できるものだ。赤ちゃんが雑誌のページをタップしてズームしようとしている動画を見てみてほしい。iPadのように動くことを期待しているのだ。スワイプ、ピンチ、ズーム、タップ。こうした直接的な操作方法は、人間の自然な動作を刺激する。数年前、私はプロダクトと直接インタラクションをとるため、「タッチ世代」がいかに以前とは異なる形でプロダクトとつながるかについての記事を書いたことがある。

二つ目のシフトについて。これは多くのインターフェイスデザイナーがいまだに理解できていない点だ。それは、現実の世界で人は他の人の動作を見ながら物事のやり方を学ぶということである。多くの18歳が新しいアプリの使い方を学ぶ方法は、友人の動作を見ることなのだ。すぐそばの友人のスマホ上で、友人がスマホを取り出してなにかを見せるときにだ。

実に、これは私たちがこれまで物事を学んでいた方法に回帰するものだ。ボールを投げる、カップを持ち上げる、ネクタイを結ぶ、ドアを開ける方法を学んだのは他人の動作をじっくり見ていたからだ。そのあと大きくなって、自転車に乗ったり車を運転するのを学んだときも、おそらくその方法を教えてくれる誰かがそばにいてくれたことだろう。ソフトウェアが今のように(アプリの形で)身体的になっているのだから、他の人のやり方を見ることで使い方を学ぶべきじゃないか?

Snapchatの使い方を知りたい? 簡単だよ。ティーネイジャーを見つけて教えてもらえばいい。アプリを頻繁に使っている人なら、写真の撮り方からフィルターを使って写真の上に絵を描く方法、黒と白などの秘密のペンカラーを得る方法、フェイススワップの使い方、QRコードを使った友人の追加方法など多くのことを教えてくれるだろう。

シェアラブルデザインの時代へ

シェアラブルデザインというのは、人間の学習方法における社会的な特徴を深く理解したものであり、人の学習したい・教えたいという欲望に重きを置いている。

Snapchatはこの点において秀逸だった。なぜなら、分かりづらいように見える機能の一つ一つが、ユーザーに対して友人にクールなことを教える機会を提供しているからだ。友人にクールなものを見せられれば、友人間における自分のポジションは高くなる。でなくても、単にいい気持ちになれるだろう。いずれにしても、ユーザーがやりたくなることなのだ。そして、Snapchatにとってもすばらしいことだ。なぜなら、ユーザーをプロダクトの伝道師へと変え、ユーザーは伝道していることすら気づかないのだ。ただ、友人に対してすごいことのやり方を教えているだけなのだから。


Musical.lyのビデオは、Instagram、Facebook、Twitter上でたくさんシェアされた。

このようなシェアが起こるには、必ずしも対面である必要はない。Musical.lyは、2015年に楽しいミュージックビデオをつくれるクールなアプリとして人気が伸びた。InstagramやFacebook上で誰かがMusical.lyのビデオをシェアしたとき、その人の友人がどうやってビデオをつくったのか質問していたのをよく見たことだろう。こうしてユーザーは「Musical.lyを使ったんだ」と言えるチャンスがあたえられる。そして、それが人を介して、インフルエンサーを通して広がっていったことで、Musical.lyは爆発的に成長したのだ。

シェアをうながすことに加えて、こうしたデザインには二つの利点がある。まず、機能が特に人の記憶に残りやすくなる。誰かが自分のiPhone上で、人の名前を長く押してメニューが現れて、その人の情報をコンタクトリストに保存できることを教えてくれれば、その知識は記憶に残る。他者とのやりとりにおける記憶が身体の記憶に結びつくため、記憶が定着するのだ。

もう一つの利点は、こうした機能がスマホの画面を取らなくなることだ。スマホのスクリーンはかなり小さいため、ボタンやアイコンを配置できる部分はとても小さくなる。当然ながら、1990年代のWindowsのアプリケーションが使っていたボタンいっぱいのツールバーは適用できなくなる。だが、長押しや3Dタッチの「深い」押し、上から下にスワイプするといった「見えない」機能は、スクリーンをまったく占有せずにすむ。

シェアラブルデザインについて書かれた優良な書籍はまだないが、Luke Wroblewskiをはじめ何人かのデザイナーはこうした概念のいくつかに触れたモバイルデザインについての賢明な記事を多く執筆している。そしてもちろん、明らかにこの哲学を理解しているデザイナーがつくったアプリやオペレーティングシステムも存在する。Snapchat、Prisma、iOSの最新バージョン、そしてTwitterもある程度は理解しているといえる。

私はシェアラブルデザインに関するリサーチや文章に取り組む人がもっと増えてほしいと期待している。大切な分野であるし、ウェアラブルや拡張現実、そしてより多くのモバイルデバイスといったものがあふれる世界に突入するにあたって、その重要さは今後一層増すことだろう。もしあなたが良い例を知っているのなら、ぜひ教えてほしい!

原文: Intuitive Design vs. Shareable Design

翻訳者: 佐藤ゆき

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