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プロダクト開発におけるUXリサーチの使い所とは?root Design Meetup #4

UXリサーチという言葉自体を耳にする機会が増えてきました。しかしUXリサーチとはユーザー体験に関する調査の総称であり、その言葉が示す内容は広く抽象的です。そのため、組織内で必要性をわかってもらえない、どう取り組めばいいかわからないといった悩みを持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。

rootでは2020年8月から、定期的に「root Design Meetup」というイベントを開催しています。本イベントでは事業の成長フェーズにおける課題について1つテーマを定め、ゲストとトークを行っています。

第4回となる今回は、「プロダクト開発におけるUXリサーチ」についてディスカッションを行いました。ゲストは、株式会社メルペイでUXリサーチャーとして活躍される松薗 美帆さんです。

本記事では株式会社ルート UXリサーチャー・デザイナーの古里 凌哉と松薗さんがイベントで話された内容をレポートしていきます。

フレームではなく、プロジェクトの目的を起点にする

松薗さんは2019年1月に株式会社メルペイにUXリサーチャーとして入社され、社内のさまざまなプロジェクトでリサーチの設計から実施までを担当されています。

まずはじめに、松薗さんがUXリサーチをどのように捉えているのかを話してくださいました。

松薗:私はUXリサーチをUXデザインのための一手法だと捉えています。用いるリサーチ手法は、フィールド調査や、新規機能のコンセプト評価、週次でのユーザビリティテストなど多岐にわたります。あくまで「リサーチ」なので、マーケティング・リサーチといった他のリサーチと共通する部分もあります。

UXリサーチは幅広い解釈があります。実際には、探索を目的とするリサーチなのか、検証を目的とするリサーチなのかによってもプロセスや手法が変化します。そのため、チームで会話をするときにはなるべくUXリサーチとは言わないようにしています。できるだけ具体的に、「こういう目的でこういう調査をしましょう」と話します。

プロジェクトの目的にあわせて、具体的なリサーチの設計や手法を使い分け、実施をリードする役割がUXリサーチャーであると松薗さんは話します。

松薗:目的に合わせて実施することが重要です。例えば、ユーザビリティテストがやりたいという相談があった場合、まずはユーザビリティテストが目的に対して適切なリサーチ手法かどうかを検討します。探索は十分にできているのか、何が明らかになっていて、何を知りたいのか、問いは適切なのか。相手やプロジェクトがもつ背景を理解し、そもそもの目的に一緒に立ち戻るようにしています。

松薗さんから共有いただいた、目的の確認と、適した手法の選択という話は社内を想定したものでしたが、クライアントワークにも共通する部分があると、古里はいいます。

古里:クライアントからいただいたリサーチの依頼内容が目的とズレている場合には、目的にあわせて軌道修正することがあります。UXリサーチの出発点となる仮説の確度が十分か、その根拠が揃っているかどうか、観点が網羅されているか。それによって、探索と検証どちらのリサーチを行うかも変わってきます。

クライアント自身が認識している課題の粒度はさまざまで、UXリサーチャーの役割をもった人がそれらの課題を整理して正しい目的とその目的に沿ったリサーチへとリードしていく必要があります。

ユーザー理解を目的とした小さな成果からはじめる

メルペイの場合、UXリサーチャーという職種ができる以前からUXリサーチを行う文化が存在したそうです。しかし、UXリサーチャーが登場する前は、ユーザビリティテストが主で、リサーチの可能性については十分に認識されていなかったといいます。

松薗:私たちが入社したとき、周囲からは「ユーザビリティテストをやってくれる部署ができたみたい」と思われていました。その認知を変えるのに、苦労しましたね。まずはユーザビリティ調査を全うして、顕在的な要望に応えながら、社内への啓蒙活動を続けました。プロジェクトのもっと初期から声をかけてほしい、そうすればリサーチでこういうこともできるよと全社に呼びかけてたんです。

古里:ベンチャーはどうしてもデリバリー優先でマネジメントを行うことになってしまいがちです。そうなるとリサーチャーに集まる期待も、デリバリーしたものが機能したかどうかの検証になりやすい。だから開発のなかでまず介入しやすい部分が効果検証なんじゃないかと。そこから成果を積み重ねていくことでリサーチャーがいることの効果を理解してもらえる。メルペイの場合、成果については何をもって実感されていったんでしょうか。

松薗:中期的な成果としては第三者機関からでた使いやすさのランキング第一位やお客さまからの口コミがありました。「メルカリがつくったものだから使いやすいね」といった投稿を見つけられることで「こだわってよかったね、リサーチやってよかったね」と社内の雰囲気が変わっていったように思います。

メルペイでは松薗さんを含めたUXリサーチャーの社内営業的な活動により、リサーチに対する望ましい認知が社内へと浸透していきました。しかし、「そもそもリサーチの必要性がわからない」といったような組織であれば、効果検証が介入していく余地さえない場合もあるでしょう。こうした組織に対して、何かUXリサーチャーができる手立てはあるのでしょうか。

松薗:「自社のサービスを使ってくれているお客さまのことを知りませんか、理解したくないですか」という問いからはじめてみてください。目的を明確に掲げることが重要です。探索なのか検証なのかというところまで考えなくて大丈夫。まずは自分たちが描いていたお客さま像と実態の乖離に気づくところをゴールにしてみてください。そうすると、「やっぱりお客さまのこと知らないといけないな」ってなると思います。座談会でもいいし、エゴサーチして調べてもいいし、問い合わせから分析してみてもいいですね。

古里:座談会の開催もオンラインなら手軽になりましたよね。他には、サイト上のユーザーのカーソルの動きを録画して見れる製品があるので、その動画をみんなで見るだけでも関心をもってもらうきっかけになると思います。

松薗:そうですね。手法にこだわらず「お客さまに聞いてみた結果、発見があった」という体験をしてもらうとリサーチを浸透させやすくなるんじゃないでしょうか。

誰が一人目のUXリサーチャーになるべきか

やっぱりお客さまのことを知らないといけないなという納得感を得た後、「では組織のなかでUXリサーチを実施していこう!」となった場合に、誰が一人目のUXリサーチャーを担うべきなのでしょうか。

松薗:どうしても最初は兼務が多いんじゃないでしょうか。PdMやUXデザイナー、あるいはデータアナリスト。興味がある人や必要性がある人であればどの職種の方が担当しても一旦は問題ありません。組織に取り組みが浸透していけば、いずれどうしても手が足りなくなってくるはず。リサーチが企業文化として浸透していれば、専任をたててもよいのではという雰囲気に自然となっていきます。

今は、UXリサーチャーが専任で存在しているメルペイでも、もともとはPdMの方が兼務していたといいます。

松薗:メルペイの関連会社である株式会社メルカリにはUXリサーチをやる文化があり、PdMがリードしてUXリサーチをやっていました。そのPdMがメルペイに入社して、リサーチする文化がメルペイにも引き継がれました。ただPdM業務のなかでリサーチもすべて担当するには到底手が足りないとなり、専任で私たちが採用されたんです。メルカリもメルペイも、UXはみんなが考えるべきものだという考え方から職種にはUXという単語を使わないようにしていたんですが、UXについてリサーチするスキル(マインド)を持った専門家、ということで、UXリサーチャーという職業ができました。

兼任から、専任のUXリサーチャーがいる体制へと変化したメルペイ。これまで兼務していたPdMとUXリサーチャーの役割の棲み分けはどのように調整しているのでしょうか。

松薗:明確な職務内容の棲み分けはありません。プロジェクトで一緒になったPdMやデザイナーのキャパシティやモチベーション、あとはプロジェクトの状況に合わせて役割分担をしています。自分でリサーチをやりたい人であれば伴走しながら、自分の業務に集中したい人であれば、こちらで計画から実施までしたものをインプットします。

古里:お話を聞いていて目的意識の強い組織だなと感じました。UXリサーチャーがPdMやプロジェクトにあわせて役割を柔軟に変えているという部分に文化が見えますね。

松薗:バリューが大きく影響していると思います。All for Oneである一方、Be a Pro(プロフェッショナルであれ)でもあるので、お互いの職種をリスペクトした上でのバランス感覚が個人個人にあるのかもしれません。

事業会社のUXリサーチャーとデザイン会社のUXリサーチャー

社内で専任のUXリサーチャーとして働く場合と、社外のパートナーとして伴走する場合には、リサーチを行う「範囲」に違いがあります。松薗さんのように事業会社内のUXリサーチャーであれば、自社事業に関係するドメインを深く深く掘り下げてリサーチを行います。一方、rootのようなデザイン会社であればクライアントに応じてさまざまな領域のリサーチが必要になります。

古里:私たちの場合は、クライアントが変われば、プロジェクトでインプットする分野も変化します。思いもよらないインプットを通じて、自分のものの見方が更新されていくのはとても面白いですね。松薗さんは1つの分野に向かって掘り下げてリサーチをされていますが、1つに向かいすぎて主観が入ってしまうことはないんですか?

松薗:ありますよ。これまで数百人見てきたなかで大事そうだなと思った話やこうしていきたいという想いがついつながってしまう。

これまではリサーチャーだから客観的で中立じゃないといけないと思ってたんですが、今は客観を諦めた境地にいます(笑)想いがあるので、どうしても分析時点で主観が入ってしまうし、この会社の一員だからこそ、主観をだす意味があるんじゃないかと。主観があるからこそ、こっちには行っちゃいけない、こうしてはいけないという方向には進まないよう舵をとることもできるんです。

古里:「事業としてどちらの方向を向くべきか」を、リサーチャーが深く理解していれば、想いが入っても結果プロダクトのためになるんですね。客観的であること以上に、自社の事業が社会においてどういったミッションを果たすべきかリサーチャーが理解していることが重要だと感じました。

松薗さんがチームメンバーへリサーチ結果をインプットする際には「ファクトに基づいた主観である」ことを必ず伝えるといいます。そしてメンバーにリサーチ結果をどのように伝えるかについては、とても苦労している部分だと話します。

松薗:何百人といったお客さまを見ている自分と、他の役割をもったチームメンバーでは前提が違います。なので、相手にあわせて伝え方を考えるようにしています。論理的でシンプルな伝え方が理解しやすい人もいれば、お客さま視点でエモーショナルなほうが腑に落ちる人もいる。その都度、どう伝えればプロジェクトで使いやすい情報になるかを考えて工夫しています。ただビジネスなので、量的な観点を見せることは忘れずに。

古里:すごく共感します。UXリサーチャーの役割を持っている人は、社内のステークホルダーを一歩ひいて見る傾向があるのかもしれませんね。

松薗:確かに。ステークホルダーリサーチみたいなことを頭のなかで勝手にやってるのかもしれないですね(笑)

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