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土地ごとのユーザー行動をいかに捉えるか?新興国におけるUberのUIローカライズ戦略

UI/UXデザイン

この記事は、FastCompanyに掲載された記事を公式に許可をいただき翻訳させていただいたものです 


“2Gのような通信環境”でUberがぶつかった壁

多くの配車アプリを開くとメインのインターフェースに地図が表示される。ユーザーは地図上で現在地や行き先までの経路を設定したり、小さな車のアイコンでドライバーがいつ到着するのかを確認したりする。

おなじみのインターフェースは2010年のサンフランシスコでUberが生み出した。GPSもインターネットも問題なく機能し、格子状に敷かれた道路を、高性能のスマートフォン片手に人々が闊歩する。サンフランシスコにとって最適なインターフェースだったといえる。

しかし、地球上にはそうでない場所が沢山ある。Uberのデザインチームは、東南アジアやラテンアメリカ、中東へ進出する過程で壁にぶつかった。(現在、Uberは63ヶ国、600の都市で運営されている)Uber IndiaのプロダクトリーダーShirish Andhare氏は次のように振り返る。

「初代のアプリを開発する際に立てた仮説のほとんどは新しい市場に当てはまりませんでした。通信速度も遅く、GPSも正確に機能しない。デバイスのメモリも限られている。Uberのような複雑なアプリはうまく機能しませんでした」

Andhare氏のチームはインドを拠点に開発を進める過程で、ユーザーがうまく車を予約できていない状況に気づいた。インドだけでなく、Androidのシェアが高い国でも同様だった。

原因を探るべく、インドやラテンアメリカの都市をめぐってユーザーに話を聞いた。そこで得た考察をもとに開発されたのが「Uber Lite」だ。2018年の夏、インドでパイロットバージョンをリリース。今年には30ヶ国でサービスを開始した。英語やスペイン語、ポルトガル語、アラビア語に対応している(まもなくヒンディー語にも対応予定だ)。2018年末からUber Liteのダウンロード数は3倍の伸びを記録した。

これは同社のグローバル展開における一つの成功例といえる。Uberは2018年に東南アジア、2017年にロシア、2016年に中国へ展開した。その際は、地元の配車アプリの力を借りざるを得なかった。中国では地元の競合企業に事業を売却。今年の上旬に中東では最大の競合企業Careemを310億ドルで買収した。デンマークでは規制によってサービス展開を中止している。

一方Uber Liteは、同社が自ら世界各国のユーザーの課題を解決するためにゼロからデザインしたものだ。

Andhare氏らによるユーザーへのヒアリングからは、いくつかの事実が明らかになった。Androidのシェアが高い国(欧米以外には多く存在する)では、ほとんどのスマートフォンや携帯電話がUberのような大容量のアプリを想定していないこと。インターネットやGPSを安定して利用できない地域も多いことなどだ。

また機械に明るくないユーザーは膨大なテキストに圧倒されていた。性能の低いスクリーンで大量のテキストを読むのは辛い。Andhare氏が詳しく説明する。

「Uberを利用しようとする人は多くいるのに、アプリが最適化されていなかったんです。彼らの通信環境はマーケット・ストリート(サンフランシスコ中心部の目抜き通り)とは別物。『4G回線が混みすぎて2G回線みたいだ』とよく冗談を言っていました。ユーザーの3分の1近くが、こうした不安定な通信環境に置かれていました。いらいらして乗車をキャンセルしてしまうのも当然なのです」

ユーザーの声が生んだ、地図のないインタフェース

Uber Liteのデザイン開発を率いたのは、プロダクトデザインリーダーのSri Jalasutram氏だ。彼にとって最大の決断は、メインのインターフェイスから地図をなくしたことだ。決断のきっかけは、ブラジルで暮らすMariaというユーザーの話だった。事業を営む彼女は、WhatsappとGmailを使いこなしているが、Uberで配車をするには娘に助けを求めた。Jalasutram氏は「最大の原因が地図にあった」と語る。

「Mariaのデバイスは必要最低限の機能しか備えておらず、GPSの精度も高くありません。 Uberのアプリを開くと現在地を示す青い点が常に動き回っていました。彼女は現在地が地図上のどこか自力で探し、乗車したい場所を手動で入力する必要がある。そうした使い方に対してアプリは最適化されていませんでした」

行き先の自動検索機能も役に立っていなかった。Mariaは住所ではなく目印で街を把握していたからだ。

「Uberというアプリがいかに地図を前提に設計されてきたかを痛感しました。それがいかに役に立たないのかということも。地図上には多くの情報が表示されますが、Mariaにとって重要なのは『車に乗れるかどうか』と『沢山文字を入力せずに済むか』なのですから」

そこで、Uber Liteには地図を表示せず、現在地の設定にもGPSを利用しないことに決めた。青と白二色のホーム画面には、巨大なテキストで「乗車場所を選んでください」と表示される。その下に、現在地に近い病院や電車の駅、バス停、空港、ショッピングモールなど、乗車場所として選ばれやすい場所の名前がリストアップされる。ユーザーは乗車場所を選ぶために一文字も入力する必要はない。

配車の状況は大きな文字と明るくはっきりした色で表示される。強い日差しのなか、性能の低いスクリーンでも読みやすいよう、Jalasutram氏らはコントラストも強めに設定した。

「リクエストが完了すると画面全体が青になり、マッチングが完了すると緑に変わります。地図上でドライバーの現在地を確認せずとも、ユーザーは安心して車を待つことができます。

テストの結果、『地図があったほうがよかった』と言う人は誰もいませんでした。『地図はなくなったの?』と聞く人すら一人もいなかったんです」

テストからは別の気づきも得られた。Uberのアプリでは、UberPOOLなど複数の選択肢が表示され、ユーザーは横にスワイプして選択できた。しかしテストを行った国では誰もが最安値を求めており、かつ横スワイプに馴染みがなかった。

そこでUber Liteでは、乗車方法のリストをもっとも安い選択肢から順に、縦並びに変更した。この変更に対してはポジティブな反響が多く届き、デザインチームは2018年11月からUberのアプリにも同様の変更を加えた。

Uber Liteの乗客は手頃な選択肢を選ぶ確率がUber利用者の2倍に上ったという。「スマートフォンや携帯電話に割く予算と、アプリ上で利用する予算には一定の相関関係があるようでした」とAndhare氏は振り返っている。

まさにUber Liteジム。徹底した軽量化を目指して

Uber Liteから得たインサイトを、Andhare氏らは別のアプリにも活かしている。その一例がエジプトのカイロで試験運用が始まっているUber Busのアプリだ。Uber Busは乗車場所と降車場所があらかじめ決まっており、路線バスと同じように利用できる。公共交通機関を少しグレードアップした「プレミアムエコノミー」のような体験だとAndhare氏は形容する。

Uber BusのアプリはUber Liteのプラットフォームをベースに開発された。地図がなく、わかりやすく色で区切られている点などが共通している。

「Uber Liteをもとに開発したのでリリースにかかる時間は5分の1に削減できました。昨年のUber Liteをめぐる挑戦のおかげで、これまでにない速度で新興国市場において新たな体験を届けられました」

加えてUber Liteは、とある技術的なゴールにも貢献した。Uber Liteの開発では、アプリの容量を5MBに削減するため(通常のUberアプリの容量は40MB)、あらゆる無駄をそぎ落としていった。不要なコードを削っていく作業を、Andhare氏らはジョーク交じりに「Uber Liteジムに行く」と呼んだ。1キロバイト単位で何が必要かをエンジニアと交渉した。エンジニアたちは操作ごとにネットワークへ接続するのではなく、複数の操作をまとめて接続する手法を編み出し、接続回数を20分の1に削減した。

大幅にそぎ落としきれなかった要素もある。例えば、およそ200KBを占めるフォントのデータだ。Andhare氏らは地道にブランドチームと交渉を重ねた。「他のアプリにとっては取るに足らない容量でもUber Liteにとっては重要です。交渉の結果、何とかAndroidの標準フォントを利用できることになりました」

標準フォントを利用したため追加の容量は不要になった。こうした地道な努力の結果、通常のアプリと同等の機能を備えながらも80%も軽量化したアプリが実現した。

文化の違いをプロダクトに反映する意志

複数の大陸にまたがり何億人ものユーザーへアプリを最適化する際、あらゆる文化的な違いを考慮するのは不可能だ。しかし、チームは可能な限り実現しようと試みる。とくに電話をかける、ドライバーにメッセージを送るといった行為にまつわる常識の違いだ。

例えば、インドのユーザーは今どこいるのかを知らせるためにドライバーに電話をかけようとする。一方ブラジルとエルサルバドルのユーザーは、道端でスマートフォンを取り出し、電話をかけたがらず、テキストで連絡を取ろうとする。Jalasutram氏はこうした微妙な差異も考慮していた。

「Uber Liteにはテキストのみでやり取りできるオプションを用意しました。ユーザーはアプリを起動した場所に応じて、文化的に馴染みのある使い方を選択できるのです」

Uber Liteの開発は、直接ユーザーに話を聞き、人がどうテクノロジーを利用するかについての思い込みを捨てるエクササイズだった。Andhare氏は今後も文化の違いがプロダクトにまつわる意思決定を前進させると考えている。

「何を『不便』と感じるかは場所によって異なります。シリコンバレーの住人が『歩きたくないな』と思う距離でも、インドではまったく問題ない。むしろ彼らにとっては、確実に乗車できることが最優先で、多少の不便は厭わない。Uberはそうした違いを理解する経験を、一つずつ積み重ねているところです」

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