- date
- 2021.04.16
UXリサーチをやってみよう 探索編
目次
はじめに
この記事ではUXリサーチの目的や位置付けと、代表的な調査手法であるインタビューのやり方について紹介したいと思います。
UXリサーチとは、UXデザインに関する活動のうち特にユーザーを理解するための取り組みです。ユーザーが体験するさまざまなことの中に、ユーザーにとってのうれしさや価値ある実感を組み込むためにはまずユーザーの置かれている状況や文脈を客観的かつ詳細に理解する必要があります。UXリサーチはUXの改善や向上のための第一歩であり効果的な施策につながるインサイトを集積し固めた基盤であると言えるでしょう。実際にさまざまな企業が自社のプロダクトやサービスのユーザーを理解するために、UXリサーチに取り組んでいます。メルカリやLINE、クラシル、NewsPicksなど強固な顧客基盤の上に成り立つ企業は、UXリサーチを専門に行うチームを持つことが多いです。
UXデザインにおけるUXリサーチの位置付け
UXリサーチはUXデザインのサイクルの中に位置付けられます。
この図はデザインシンキングのベースとなる経験学習モデルの一部を略図にしたものです。UXデザインのプロセスも経験学習モデルに基づき、反復性のあるプロセスとなります。この図は上下に分割されており、下半分が具体的な現象や事実に着目すべきフェーズであることを表し、上半分が具象を元にその共通点や関係性を抽象化・モデル化していくべきフェーズであることを表しています。時計回りの矢印が示す通り、UXデザインのプロセスにおいてはユーザー体験に関する具象を収集し客観的に分析することで、抽象化されたモデルを導く流れとなります。
UXリサーチが位置付けられるのは四象限のうち具象の収集から分析へつなげる部分に当たります。そのため、UXリサーチの結果は次の分析やモデル化の取り組みへ受け渡されることまでを計画に入れる必要があるでしょう。またUXリサーチを実行する前に、検証や探索の目的となるユーザーの行動や価値観に関する仮説や仮説に基づいたプロトタイプがあることが前提となります。
では具体的にUXリサーチの前後で何がどのように受け渡されるべきでしょうか。UXの改善を目的とした場合の例をあげて具体的に解説します。
UXリサーチが対象とする二つのもの
「リサーチ」とは「調査」や「探索」を表すように、探すためには探す対象や目的が必要です。目的や対象が明確でないままでは探すという行為の要件を満たしていないでしょう。UXリサーチにおける探す対象とは大きく二つあるでしょう。
一つは「ユーザーの行動や選択・感情・価値観に影響を与える要因は何か」を特定することです。ユーザーの潜在ニーズの探索のためにこれらを対象としてリサーチを行います。これを目的として調査を実行するためには、ユーザーの行動に関する何らかの仮説があることが前提となります。ユーザーの行動や要望の裏にある隠されたニーズを解き明かすことで、まだ満たされていないニーズや価値を発見することがミッションです。ユーザーへの半構造化インタビューやデプスインタビューなどの手法がこちらの目的で使われることが多いです。
二つ目は「あるモノがユーザーの行動や選択・感情・価値観に期待通りの影響を与えうるか」を検証することです。これは機能やコンテンツがユーザーの要求に応えられているかどうかを確かめることを目的として実行します。これを目的とする場合、ユーザーの行動に関する仮説に基づいたプロトタイプやデリバリーされた(またはされる予定の)実際に機能するシステムが必要です。ユーザーの行動や認知の表現型を手がかりに、プロトタイプが期待通りにユーザーに作用するかどうかを確かめることがミッションです。具体的な手法としては「ユーザビリティテスト」などがこちらに含まれます。
このように、二つのうちどちらが目的なのかをUXリサーチに取り組む前の計画の段階でしっかりと確認しておきましょう。
探索を目的としたユーザーへのインタビューのやり方
ここからはユーザーの潜在的なニーズを引き出す目的で行われる半構造化インタビューの調査設計のための具体的な活動についてまとめます。※オンラインでの実施を前提としています。
後編では、検証を目的としたユーザビリティ評価を取り扱います。
1.調査設計
仮説と狙いの確認
まずインタビューの狙いを定めます。UXリサーチの二つの目的のうちどちらなのかを明確にしておきましょう。また、それぞれ前提となる仮説を関係者全員で認識を揃えるようにしましょう。ここで仮説と狙いを関係者全員で確認することが、のちにインタビューの実施やまとめ・分析をする際に非常に重要になってきます。確実に認識を揃えるようにしましょう。
リクルーティング・日程調整
対象者はどんな人物であるべきかを定めることはUXリサーチを効率的に行う上で重要です。デモグラ・属性としてはどんな?プロダクトにとっての顧客セグメントでは?どんな行動をしているユーザーが対象か?を手がかりに対象者を絞り込みましょう。調査会社のモニターを母数として対象者を決める際、スクリーニングの条件に活用しましょう。
対象者との日程調整において重要なのは、対象者とモデレータがラポールを形成できる・インタビューに適した環境で行ってもらうよう依頼することです。オンラインでのインタビューでは実施場所について主催者側から指示しない場合、対象者の裁量で勝手な場所から接続参加されるケースがあります。インタビューにおいて落ち着いて腰を据えて話せる環境は必須条件です。なるべくそのような場所で行っていただけるよう明示的に依頼する必要があるでしょう。
前提情報のインプット
対象者に関する前提情報は可能な限り事前に収集し、関係者で認識を揃える必要があります。可能であれば事前アンケートなどを実施するのも良いでしょう。質問項目が事前に明確である場合、アンケートで集めるのが最も効率的です。
質問項目の設計
インタビューの形式には3タイプあります
- 構構造化インタビュー:設問があらかじめ決められている形式のインタビュー。一問一答形式。
- 半構造化インタビュー:大まかに聞きたいことの流れのみが決められており、細かい設問については実際の対話の文脈に沿って展開・深堀するインタビュー。
- 非構造化インタビュー:あるテーマについて自由に対話を繰り返し、深い部分から情報を引き出すやり方。非常に高度で時間がかかる。
ユーザーの潜在ニーズを引き出すインタビュー手法としては、半構造化インタビューまたは非構造化インタビューが用いられることが多いです。非構造化インタビューの実施には対象者の置かれている環境に実際に身をおくことや対象者の属する文化を含めた包括的な理解が必要になるため、非常にコストがかかります。そのため多くのケースで半構造化インタビューが使われることが多いでしょう。
半構造化インタビューをするときに決めておくべきなのが、質問の大まかな流れです。大筋の聞きたいことはあらかじめ箇条書きにしておきつつ、掘り下げたいことについては随時会話の中で質問を展開させていくことが望ましいです。ここには、あらゆる状況で当てはまるわけではありませんが、質問の流れを作る際に押さえるべき観点をあげます。
- 対象者の置かれている状況や文脈について理解するための質問
- 仮説に関する情報を引き出す質問
- その他、対象者が自覚している課題や顕在化している要望についての質問
2.ユーザーインタビューの実行
対象者の置かれている状況や文脈を理解する
まずは対象者の普段のやり方やいつもの状態について質問し理解することが重要。対象者が普段の様子を特別誇張したり瑣末なことだと切り捨ててしまうと大切な情報が損なわれたり、歪められてしまいます。対象者にとっては当たり前で話すまでもないようなことについて特別な関心を寄せているという姿勢で向き合いましょう。対象者にはあらかじめ、モデレーターが同じ質問をしたり、初歩的なことや当たり前のことをお聞きすることがあるかもしれませんが、何も知らない人に話すような気持ちで答えてもらえるようにお願いするとスムーズに進行できます。(弟子入り法)
弟子入り法
対象者を師匠・モデレータを弟子と見立てて、何も知らない人にイチから教えるようなかたちで普段のやり方について引き出す手法。実地観察などでも用いられる。初歩的なことやアタリマエのことも質問するという前提をたてて、対象者が当然と認識していることや無意識の判断基準などを言語化できるよう準備を整える。
また、対象者を理解するためには、対象者の見ているものや置かれている環境を丸ごと理解する必要があります。この段階でしっかり対象者と目線をあわせないと、質問に対する回答が何を意味しているのか、正しい理解が得られません。対象者と認識を揃えるために重要な観点が二つあります。
一つは、対象者の心や頭の中にある基準や判断軸を捉えることです。対象者がどの程度の量を「多い」と認識するのか、どの程度だと「少ない」と判断するのかといったように、感覚値を定量化することでどこに基準があるのかを引き出すことができます。例えば頻度であれば月あたり何回か・日あたり何回かと尋ねることで定量化されるでしょう。他にも、ある手順について、通常のやり方とイレギュラーなやり方を尋ねるのも良い切り口です。手順が分岐するとき、何を基準に判断しているのかを引き出せることができると、いいインサイトが得られることがあります。
二つめは、環境や状況・人間関係など対象者に影響を与える外的な要因について理解することです。対象者のタスク実行手順の分岐のトリガーやタスク発生のトリガーがどこからもたらされるのか、共同で行うタスクであれば、どこにいる人物と行うのかなど、モノや人の関係性に着目した質問をしていき、認識をそろえることが望ましいです。例えば企業活動を対象とした調査であれば、組織内の構造や取引先との関係、位置的な関係などについて質問することから始めると良いでしょう。
仮説に関する情報を引き出す・要望からそれが生じた背景を引き出す
ユーザーに関する仮説には、ユーザーが行動や選択をするときの判断基準や価値観が前提となっていることが多いと思います。このような基準や価値観の存在を確かめたり、より明瞭にすることがインタビューの目的となるでしょう。基準や価値観は対象者の主観にある情報のため、対象者の主観的な経験や感覚値から得ることが重要です。質問をする際に押さえるべきポイントとしては例えば以下です。
引き出したいこと
- 対象者の普段のやり方
- 対象者にとっての普通・通常だと感じる状態
- 対象者にとって異常・困難を感じた経験
- 対象者にとっての感覚や受け止めた時の素直な気持ち
質問の切り口
- 対象者自身の経験を引き出す
- 何をしたのか・何が起きたのかなど対象者にとっての事実や出来事を引き出す
- 対象者がなんらかの判断や意思決定を行った場合、なにを基準として判断したのかを引き出す
- 対象者の感覚的な情報を客観的に計量できる値に変換する
たとえば、なんらかのプロセスについての仮説であれば、そのプロセスがうまくいったケースについて実例を挙げてもらいながら順序立てて話してもらうことが良いでしょう。話の中にプロセス進行に関係する意思決定や判断したポイントが登場したら、随時決定や判断の基準に関する質問を挟んでいくようなイメージです。うまくいったケースのほかに、うまくいかなかったケースについても話してもらい、二つの状況を決定的に分けた要因は何かを探っていくとペインポイントやレバレッジポイントがどこかが特定できるでしょう。
また、なんらかの事象の原因についての仮説であれば、その事象が起きたときの具体的なエピソードについて話してもらうのが良いでしょう。そのときの状況・環境・関係性・時間・場所・前後に何があったかなどについて展開・掘り下げることで、普段の状況との決定的な差異やそれを産んでしまった原因が特定できるでしょう。
逆に、聞いてはいけないこととして
- 回答の誘導「私たちのブランドについてポジティブな気持ちが連想されますか?」
- 出題者側からの提案・示唆「例えばこんな機能があったらどうおもいますか?」
- なぜそうしたのかを直接聞く「その機能を使うのは何故ですか?」
ことは避けるべきとされています。なぜ?と聞くことを避ける理由としては、理由を問うことで対象者の無自覚な判断軸や価値観について強引に向き合わせ、考えさせてしまうことで意図と異なる理由を後付けさせてしまうからです。モデレータの期待する回答というのは対象者に見抜かれてしまうことがあるため、恣意的な回答を誘導しうる質問はなるべく避けるようにしましょう。
3.インタビューの後に
なるべく実施の直後に同席者全員で振り返りを行い、インタビューの結果をレポーティングするのが良いでしょう。全員の記憶が新しいうちに仮説に関して何の情報が得られたのか、発話の中でも対象者の価値観や判断基準に関係している部分を抜き出し簡単にまとめるのが良いでしょう。1回のインタビューで仮説が覆ることや、新たな仮説が形成されることもしばしばあります。ぜひ早めの共有をおこないましょう。
継続的にインタビューを行う場合や何人もの対象者に行う場合は、よりしっかりしたテーブルにまとめるのが適切です。インタビューは対象者を一つの軸で比較検討できるよう、スプレッドシートのようなテーブルにして同じ観点からレポーティングしていくのが効率の良いやり方だと思います。対象者の価値観や判断基準に関する共通点や差異に着目し、どんな経験がどんな価値観や判断基準を作ったのかを見つけられると、次のステップである「モデル化」に向けたまとめが作成できるでしょう。
むすびに
いかがでしたでしょうか。顧客の価値を捉えるためにも、顧客視点からのインサイトは非常に重要です。ビジネスにつながりそうなユーザーの価値に関するなんらかの仮説がありましたら、ぜひユーザーインタビューに挑戦してみてはいかがでしょうか?後編では、仮説を元にある程度形になったものをベースにしたユーザビリティ評価について解説します。お楽しみに。
参考図書:
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