- date
- 2021.07.30
DesignOpsの基本ガイド:良質なデザインを生み出すためのプロセスと手法とは?
この記事は、Nielsen Norman GroupのInsights Architectを務めるKate Kaplan氏の記事を公式に許可をいただき、翻訳したものです。
記事の後半では、代表の西村が「DesignOpsを実践するにあたってのTips」を紹介しています。合わせて参考にしてみてください。
目次
DesignOps(デザインオペレーション)とは?
DesignOpsとは、 人材やプロセス、アウトプットの組織化・最適化によって、デザインの価値と影響力を最大化する取り組みだ。
以下のような取り組みが含まれる。
- デザインチームの成長と進化
- 最適なスキルを持った人材の発見と雇用
- 効率的なワークフローの構築
- アウトプットの質とインパクトの向上
そのために必要なプロセスや手法、スケーラブルなソリューションを築き、デザイナーがデザインとリサーチに集中し、価値を発揮できる状態を目指す。
あらゆる組織は、拡大すればするほど、官僚的で縦割りのコミュニケーションが増えやすい。デザイン組織も同様であり、それを防ぐためのソリューションがDesignOpsだ。
特にUXに携わる人は、“より多く”を効率的に成し遂げる方法を、どのチームより早く見出さなければいけない。というのも、UXのROIが高いという認識が広がり、UXチームに多くの権限を与え、増員を図る組織が増えているからだ。UXチームは社内でもっとも早く、拡大、成長するよう求められている。
Design Opsは“UXに関わるすべての人”を対象とする
DesignOpsを説明するにあたって、この記事では「デザイン」と「デザイナー」といった言葉を使っている。しかしDesignOpsは、ユーザー中心設計やデザイン思考を用いて課題解決に取り組む人なら誰でも対象となるものだ。
「デザイナー」には、UXデザイナーやユーザーリサーチャー、ビジュアルデザイナー、コンテンツストラテジスト、サービスデザイナー、コミュニケーションデザイナー、そしてエンドユーザーの体験に貢献する全ての人を含んでいると思ってほしい。
なぜ今、DesignOpsが重要なのか?
近年、デザイナーはデザイナー同士はもちろん、他のチームとも関わり合いながら仕事をするようになった。こうした変化によってDesignOpsの必要性は増している。
企業において、デザイナーは重要な議論や意思決定の場に出席するために戦い、勝利した。従来よりも広範かつ戦略的な議論に関わるようになり、もはやデザインの価値を説得する必要もない。ようやく理解されたのだ。なんて良い時代なのだろう!
しかし、その結果として、デザインやリサーチといった仕事に加え、戦略レイヤーの仕事までこなさなくてはならなくなった。要するにデザインする時間がないほど忙しくなったのだ。
その上、デザイナーはかつてないほど複雑な状況に置かれている。多くの組織ではプロダクトベース、プロジェクトベースでチームを組織し、各チームに異なる専門領域を担うデザイナーを配置している。
こうした組織において、各チームに散らばったデザイナーは十分連携できておらず、分断が深まっている。取り組むプロダクトや体験はより洗練されており、拠点によってチームが分かれているケースも少なくない。それによってワークフローや意思決定は、ますます分散していく。
こうした複雑さに対応するためには、デザイン思考やユーザー中心設計の手法を用いて、“デザインのプロセスをデザイン”しなければいけない(いわゆるメタな思考が必要になるわけだ)
DesignOpsを構成する要素、実践のための“メニュー”
DesignOpsのカバーする範囲は広い。一貫性ある良質なデザインには様々な要素が絡んでくるからだ。
個人的にDesignOpsは持ち寄りのディナーパーティーのようなものだと考えている。組織はニーズの切実な課題に沿って、DesignOpsを構成する要素を取捨選択し、取り組む。つまり“メニュー”を決めるのだ。
そのあり方は組織によって異なるし、そうあるべきだと思う。一つの組織のなかでも、課題が移り変わるにつれ、DesignOpsのなかで取り組む要素は変わっていくものだ。
以下ではDesignOpsの包括的な“メニュー”をまとめている。デザイナーを支援するプロセスや手法を設計・実行するにあたって、フォーカスするべき領域は大きく3つに分類できる。
- どのように協働するか
- どのように仕事を遂行するか
- どのようにインパクトを生み出すか
以下のメニューは、あなたの組織が、どの領域のどの要素に集中すべきかを検討する上で、役に立つはずだ。
どのように協働するか
この領域では次のような要素を検討する。
- 組織化: どのように優れたチームを構築するか
- デザインチームの組織構造のデザイン
- 必要なスキルが揃い、補い合えるチームの組成
- 個々のデザイナーのロールと、デザイン部門のロールの定義
- コラボレーション: どのように効果的なコミュニケーションのための環境や場をつくるか
- 定期的な集まりや会議などの整理
- コラボレーションを促す空間や環境の提供
- スキルの実践や興味関心を共有するためのコミュニティづくり
- ヒューマナイズ: 従業員を一人の人間として尊重しながら、採用やオンボーディング、専門的な技能を開発をどのように行うか
- デザインチームのニーズに合わせた面談・面接方法のデザイン
- 新しいチームメンバーの成功を支援するための一貫した採用とオンボーディングの確立
- マネジメントロール、非マネジメントロールの両方に合わせたキャリアパスの標準化い、透明性の高い共有
どのように仕事を遂行するか
この領域では次のような要素を検討する。
- 標準化:一貫したツールとプロセスによってデザインの質をどのように高めるか
- 着手からテスト、デリバリーにいたるまで、デザインプロセスのドキュメント化、最適化
- デザインプロセスにおいて目的を資する行動を定義し、整理
- 同じデザインツールの利用を徹底し、効率的にコラボレーションを実現
- 調和:デザインにまつわる知識を共有・発展させ、共通の前提や理解をどのように築くのか
- 効率性を高めるためのデザインシステムの構築と管理
- ユーザーリサーチのデータをストックする場をアクセスしやすい形で構築
- デジタルアセットマネジャー(DAMS)などのシステムを利用し、デザインアセットやテンプレートをチームで共有
- 優先順位づけ:どのプロジェクトにいつ取り組むべきか、優先順位をつけるには?
- デザインワークフローにおけるボトルネックの洗い出し
- デザインチームのキャパシティ把握、的確なプロジェクト配置
- 特定機能やプロジェクトを優先する際に客観的かつ一貫性のある方法を採用
どのようにインパクトを生み出すか
この領域では次のような要素を検討する。
- 評価:どのようにデザインの質を定義、評価し、デザインを“説明可能”にするか
- デザインチームにとっての「良い」と「悪い」を定義
- デザインの質の指標を整理、定期的にトラッキング
- デザインについての原則を作成し、客観的な評価方法として活用
- 交流:デザインの役割と価値をどのように共有していくか
- デザインの役割と価値について一貫したメッセージを作成、パートナーたちと積極的に共有
- ユーザー中心なデザインプロセスの成功体験を共有
- デザインの手法を日々の仕事に応用したチームへの報酬や表彰
- 成長支援:デザインチーム以外の人にどのようにデザインへの理解と実践を促すか
- デザインチーム以外の人にツールの使い方やデザインの実践について共有
- デザインにまつわるパターン・定石集を作成し、誰でもアクセス可能な状態にする。デザインチームがボトルネックとなる状態を回避。
- デザインを適切に理解し、実行するための技術トレーニングの実施
どの要素から着手すべきなのか?
上記のような要素を、一人の人間、もしくは一つのチームで、一度に全部取り組むのは不可能だ。DesignOpsの検討や実践を担う人は、状況に合わせて優先して取り組むべき領域・要素を決める必要がある。
DesignOpsに着手する前に内部でのリサーチを計画しよう(例えば、社内へのヒアリングやステークホルダーへのインタビュー、サーベイ調査などが挙げられる)リサーチをもとに、もっとも重要かつROIの高い領域、要素を見つけよう。
【DesignOpsを検討・実践するにあたってのTips①】
DesignOpsの運用を検討される際は、まず社内の状況を正しく把握することが先決です。いきなり部門を立ち上げるのではなく、戦略チームを少数で立ち上げ、社内リサーチなど現状把握を行いましょう。その後、重要度の高い課題や効果が見込める領域から実行計画を立案していきます。まずは小さくアクションしトライアンドエラーを素早く行うことが大切です。
誰がDesignOpsを実行するのか?
基本的に誰もがDesignOpsを担うことができると思ってほしい。
もし組織においてDesignOpsを実践しようと思っているなら、二つのアプローチが考えられる。役割としてのDesignOpsとマインドセットとしてのDesignOpsだ。
役割としてのDesignOps
役割としてのDesignOpsは、デザインチームがデザインやリサーチに集中し、価値発揮できているか、それを支援できているかを確かめる人やチームを指す。
より成熟した組織では、以下のような、役割としてのDesignOpsがある。
- デザインプロデューサーまたはUXプロデューサー:プロジェクト単位のDesignOpsを担う
- デザインプログラムマネージャーまたはUXプログラムマネージャー:プログラム、組織単位のDesignOpsを担う
- リサーチオペレーションスペシャリスト:対象者の抽出からスクリーニング、リサーチ依頼のやりとり、リサーチリポジトリの運用、リサーチのツールや空間、設備の管理を担う
すべての組織において、役割としてのデザインオペレーションが等しく重要なわけではない。特に必要になる組織として、規模の大きい組織やチーム、異なる領域・分野のデザイナーが集うチーム、短期で変数の多い案件に携わるエージェンシーが挙げられるだろう。
マインドセットとしてのDesignOps
マインドセットとしてのDesignOpsは、効率的にデザインに取り組むための、エコシステムや標準化されたプロセス、手法、ツールの重要性を意識することだ。そのマインドセットからは、あらゆる組織、あらゆるチームが恩恵を受けられる。
DesignOpsに特化した役割を置いていなくても、効率性と質の高いアウトプットのために、既存のプロセスを観察することは可能だ。
【DesignOpsを検討・実践するにあたってのTips②】
DesignOpsの立ち上げは、デザイナー自らが行うよりも、デザインマネージャーやPdMなど、事業やプロダクトチーム全体の生産性やパフォーマンスを意識する立場から、主体的に構築することが望ましいでしょう。
デザイナーが担う場合は、現場での業務は他のデザイナーに引き継ぎ、チームのためのパフォーマンス向上にコミットできることを前提に、プロジェクトを立ち上げることをおすすめします。
また、DesignOpsの立ち上げは、デザインチームだけで実行できるものではありません。属する組織内で、ステークホルダーを交えた前提知識の共有や課題意識のすり合わせを行うことが大切です
今、DesignOpsが求められている
DesignOpsは、デザイン組織が一丸となるための接着剤であり、領域を越えたコラボレーションの架け橋でもある。
デザインチームが拡大し、UXデザイナーの業務が増え、チームが分散し、デザインプロセスの複雑性が高まっている。そうした状況においては「後で」ではなく「今すぐ」に取り組む必要があるのだ。
どのように協働し、仕事を遂行し、インパクトを生み出すのか——。その方法こそ、明確な目的意識のもとでスマートにデザインされなければいけないのだ。
上記の内容に加えて、rootの考える「DesignOpsを検討・実践する方に伝えたいポイント」は、大きく以下の2つです。
1.社内の状況を正しく把握する
DesignOpsの運用を検討される際は、まず社内の状況を正しく把握することが先決です。いきなり部門を立ち上げるのではなく、戦略チームを少数で立ち上げ、社内リサーチなど現状把握を行いましょう。その後、重要度の高い課題や効果が見込める領域から実行計画を立案していきます。まずは小さくアクションしトライアンドエラーを素早く行うことが大切です。
2.デザイナー“だけ”で実行しようとしない
DesignOpsの立ち上げは、デザイナー自らが行うよりも、デザインマネージャーやPdMなど、事業やプロダクトチーム全体の生産性やパフォーマンスを意識する立場から、主体的に構築することが望ましいでしょう。
デザイナーが担う場合は、現場での業務は他のデザイナーに引き継ぎ、チームのためのパフォーマンス向上にコミットできることを前提に、プロジェクトを立ち上げることをおすすめします。
また、DesignOpsの立ち上げは、デザインチームだけで実行できるものではありません。属する組織内で、ステークホルダーを交えた前提知識の共有や課題意識のすり合わせを行うことが大切です。
これからDesignOpsを検討したい方へ、参考になれば幸いです。
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