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ダークデザインとは?ユーザーの意図に反するデザインが浮き彫りにする課題

ダークデザイン

この記事は、The Healthy Organisationのファウンダー・マネジングディレクターMike Stevenson氏記事を公式に許可をいただき、翻訳したものです。

The Healthy Organisationは、プロダクト・サービス開発のファシリテーションやコンサルティング、ダークデザインの監査など、幅広い支援を行っています。


デザイン思考は、価値を生み出すための強力なツールだ。正しく使えば、新しい価値を作り出し、組織や顧客、ユーザー、従業員、コミュニティ、株主など、あらゆるステークホルダーの利益を最大化できる。

デザイン思考の実践は、ユーザーファーストや人間中心設計という、狭く、真っ直ぐな道を歩いていくようなものだ。ところが、私たちデザイナーは、時として横道に逸れてしまうことがある。その手法やスキルを用いて、エンドユーザーの課題を解決するのではなく、エンドユーザーの意図に反する解決策を生み出してしまうのだ。これをダークデザインと呼ぶ。

ダークデザインとは何か?

デザイン思考の目的は、エンドユーザーの抱える問題に対し、解決策を創造することだ。ダークデザインは、こうした本来の目的から外れてしまったデザインを指す。

ダークデザインは、ユーザーにとって望ましくない選択や行動をとるよう仕向ける。それによって他の誰かが利益を得られる場合もしばしばだ。

もちろん、デザイナーは「ユーザー・プロブレム・フィット(※)」を追求する過程で、異なるニーズの間で生じる矛盾や相違にぶつかっている。それらとダークデザインが異なるのは、ユーザーの同意を得ることなく、故意にユーザーの意図を無視する点にある。

※ユーザーの直面する課題を把握できており、そのなかで解決によってビジネスにおける課題にも貢献するものを見極められている状態

ダークデザインの具体的な事例

ダークデザインは、どんなプロダクトやサービスにおいても、生み出され得る。

特にデジタルのプロダクトやサービスにおいては、グロースハックやデータトラッキング、ターゲティングなどの目的で、ダークパターン(デジタルのプロダクトやサービスにおいてユーザーに望まない選択をさせるようデザインされたUI)が蔓延している。

ソーシャルメディアでは、そうした違和感に気づいたユーザーらが事例をシェアしている。

以下は、Microsoft Azureによる、マーケティングコミュニケーションの許諾に関する例だ。

米国のユーザーは、許諾を与える(オプトイン)状態がデフォルトになっている一方で、スイスのユーザーは許諾しない(オプトアウト)状態がデフォルトになっていることを指摘している。

以下は、チェックボックスにチェックを入れるのか、入れないのか、わかりづらい例だ。

訳者注:一つ目のツイートは安全なパスワードの設定項目が多すぎることへの不満を綴っている。二つ目のツイートでは「サービスにまつわるお知らせやお得な情報をメールでお届けします。メールを“受け取りたくない”場合はチェックボックスをチェックしてください」という紛らわしい項目について「なぜこんなダークパターンを使うのか?」批判している

以下は、モバイルユーザーがデスクトップやラップトップからブラウザでコンテンツを閲覧したい場合に、専用アプリをダウンロードするよう指示される例だ。

以下は、どうやってサブスクリプションを解除するのか、わかりづらい例だ。

訳者注:画面では「完全に購読を停止しますか?代わりに週に一度のお知らせを受け取りませんか!」という文言に対し、「週に一度のお知らせを受け取る」「割引は要りません」という選択肢が用意されている。購読を停止するためには「割引は要りません」を選ぶ必要がある

こうしたダークパターンは民間企業に限らない。オーストラリアでは、国民の健康情報が政府の運営するデータベースシステムで記録・管理されるのがデフォルトになっている。

なぜ国民にオプトイン(導入に対する許諾)を強制したのか。その理由はイギリスでの事例にある。同様のサービスがオプトイン方式で提供された際、情報の提供を許諾するのは全人口のうちごくわずかだった。

もちろんダークパターンの例は、デジタルのプロダクトやサービスに限らない。フィジカルなプロダクトやサービスでは「​​計画的旧式化」や「総保有コスト」が挙げられる。

計画的旧式化

計画的旧式化とは、一定期間が過ぎると故障したり、機能しなくなったりするよう、製品があらかじめ設計されていることを指す。アップグレードや再購入を余儀なくさせるのが目的だ。

その代表例がスマートフォンである。スマートフォンが登場する前の携帯電話はバッテリーを取り外して交換するのが一般的だった。

一方、モバイルデバイスのバッテリーは消耗品で、時間の経過とともに劣化していく。メーカーは、ユーザーが電池を交換できないように設計し、電池の劣化とともにスマートフォン本体も使えなくなるようにしていることがある。

(Photo by Mahrous Houses on Unsplash

組み込まれた総保有コスト

フィジカルなプロダクトは、所有と利用にかかるコストを大幅に増やすよう、一定の制限とともに販売されることがある。消費者向けのプリンターはまさにダークデザインの代表例だろう。

一般的に、プリンターメーカーは製品を安く、あるいは原価を下回る価格で販売する。やがて購入者は、インクカートリッジを交換するためのコストが、プリンター本体の価格を上回ることに気づく。

こうした背景から、メーカーよりも安価にインクカートリッジを販売するサードパーティ業者が登場した。一部のプリンターメーカーは、サードパーティ業者の人気に対抗すべく、非公式のインクカートリッジでは動作しないよう、ハードウェアとソフトウェアに制限をかけた。

ダークデザインによるいたちごっこが激化した末に、サブスクリプションサービスを始めたメーカーもある。オンラインでユーザーのプリンターの使用状況を監視し、新しいインクカートリッジを自動的に送付(課金)することを、ユーザーに同意させる仕組みだ。用紙1枚あたりの印刷コストを下げつつ、ファーストパーティへの依存度を高めている。

一方、ダークデザインがもたらす批判を踏まえ、よりユーザーフレンドリーなデザインを提供しようとするメーカーもある。高価なインクカートリッジに頼らず、詰め替え用タンクをプリンターに搭載するといった仕組みだ。しかし、このタンクもまたハードウェアやソフトウェアへの制御によって、公式のインクしか使用できないようロックされている場合がある。ダークデザインは、そう簡単には死なないのだ。

ダークデザインは悪いデザインなのか?

ダークデザインと悪いデザインの違いは、その意図にある。「ハンロンの剃刀(※)」に沿って考えれば、悪いデザインは、無知と無能から生じることが多い。前者は、ユーザーのニーズやデザインがユーザーに与える影響を認識していないこと、後者はユーザーが望むデザインを実現する能力がないことを指す。

※無能さや愚かさの裏に悪意を読み取らないという考え方

時には、ユーザーがダークだと思うデザインが、後に課題を解決するために設計されている場合もある。セキュリティデザインは、こうしたデザインがよく見られる例の一つだ。

例えば、パスワードの最低条件や二段階認証、キャプチャ認証などアカウントへのアクセスを困難にするセキュリティ機能。ユーザーによってはフラストレーションを感じることもあるだろう。しかし、他人が許可なくユーザーのアカウントにアクセスした場合、ユーザーは大きな損害を被ることになる。

一方、セキュリティデザインは無能に起因する悪いデザインが起こりやすくもある。ユーザーにとって確認しやすく、かつハッカーにとって突破が難しい。そうした認証方法を実装するために、十分なスキルを持っていないセキュリティソリューションの設計者も多い。

しかし、一辺倒に強固な認証方法を創るのではなく、ユーザーのニーズとの衝突も考慮しつつ、できる限り利益を届けようとする意図が、設計者に残っている。生み出されたデザインは悪いデザインかもしれないが、ダークなデザインとはみなされないだろう。

(Photo by Natasha Hall on Unsplash

ダークデザインはビジネスにとって「良い」のか?

ダークデザインが採用されるのは、それがビジネスにとって「良い」とされるからだ。

本来、ビジネスにおけるゴールやパーパスは多様な要素から成る。しかし、「ダークデザインがビジネスに良い」というときの「良い」は、非現実的かつ狭い意味で、利益や成長の目標達成に貢献することを意味する。

ダークデザインはなぜ効果があるのか

ダークデザインは、行動科学とデザインの理論を活用して、ユーザーが意図に反し、企業側の利益になる行動をとるよう操作するものだ。ダークデザインを用いると、企業が重視する指標(売上、ユーザー維持、リピート率など)を短期的に実現しやすくなる。

とあるニュースのコメント欄で、社内でダークデザインと戦った経験を語っている人がいた。

「ダークパターンは他のウェブサイトでも普通に使われている。効果があるから実践されているのだ」

https://news.ycombinator.com/item?id=27641366

訳者注:米国の巨大掲示板『Reddit』のダークデザインに関する記事に、Redditのグロースチームで働いていた人がコメントしている

実際、ダークデザインがビジネスに良い場合もあるが、かなり特殊な場合に限られるし、短期的なものに過ぎない。例えば以下のような状況が該当する。

  • 規制や監査がほとんどない
  • 市場全体が「勝者がすべて、あるいはほとんどの利益を手にする」という意識で、競合する企業らが陣取り合戦に躍起になっている
  • ユーザーの選択肢が少なく、保護もほとんどない

ダークデザインは、企業以上に、個人のキャリアに、利益をもたらす傾向がある。というのも、個人がKPI(Key Performance Indicators)やOKR(Outcomes Key Results)を達成しようとする際、ダークデザインは便利な方法だからだ。個人は成功したという評価が得られ、ダークデザインによる負債の返済期限が来る前に収入アップとキャリアアップを実現できる。

ダークデザインがもたらす負債

長い目で見れば、ダークデザインは競争に勝ち、規制を守るのを妨げる「負債」となる。ベゾスの格言を借りると「我々のダークデザインは、我々の競合他社のチャンスである」ということだ。

先ほどのプリンターの例では、プリンターメーカーのダークデザインが、サードパーティ企業に低価格のインクカートリッジを作る機会を与えてしまった。自社のインクをユーザーに強制するビジネスモデルは、中期的に成り立たなくなる。

また、ユーザーは総保有コストを意識するようになった。プリンターを選ぶ際には、交換用カートリッジのコストや用紙1枚あたりの印刷コストを考慮する。そのため、プリンターメーカーの間では、カートリッジ交換を必要としないタンク式のモデルを開発するなどのイノベーションが起きている。

ダークデザインへの依存は、競争上の負債であるだけでなく、規制上の負債でもある。規制の厳しい市場でダークデザインを採用した企業は、いずれ規制当局の怒りを買うことになる。たいていの場合、彼らはあえて市場を成熟させ、勝ち残った企業が取り締まりやすい規模に至ったところで罰する。こうすることで、多数の小規模業者を追いかけるためのコストが抑えられるからだ。

また、規制当局がゲーム理論でいうキングメーカー効果(※)を発揮し、最後に追求され企業に生き残りのチャンスを与えてしまうことを防ぐこともできる。

※優勝を争っていないプレイヤーの行動によって勝敗が決まること

(Photo by Tech Daily on Unsplash

フィンテックの「Robinhood」はその一例である。同社は、手数料がかからない株式取引アプリのパイオニアだ。ダークデザインが原因で以下のような調査対象となった。

  • ユーザーの取引詳細データが、他の企業に販売され、その企業に利益をもたらす可能性があると、ユーザーに適切に伝えていなかったことへの捜査(WSJ
  • ボラティリティーの上昇による売買停止に関する調査(Consumer Affairs
  • ユーザーであった大学生の死に、同社の「ビデオゲーム」のようなデザインが関与していたこと(CNN

Robinhoodは、ユーザーが無料で素早く取引できるプロダクトを設計し、急成長を遂げた。そして今、ダークデザインがもたらした負債の一部が返済期限を迎えている。こうしたデザインを乗り越えイノベーションを起こせるかどうかが、同社の長期的な生き残りを左右するだろう。

(Photo by R.D. Smith on Unsplash

私たちは“ダークサイド”を選ぶのか?

ダークデザインに関する議論には、個人による倫理的な配慮が必要になる。世の中には、どのようにして勝ったかよりも、勝つことだけを重視する人がいる。それは、勝つことに内在する価値や競争心、あるいは成功によって外から得られる報酬のためなのかもしれない。

デザインに携わる人の使命は、エンドユーザーに役立つものを作ることだ。その解決策は、果たして本当にエンドユーザーのためになっているだろうか。企業のため、あるいは自分自身のためになっているだけなのではないか。ダークデザインはそうした重要な問いを投げかけてくれている。

私たちが生み出す解決策は、技術的に実現可能であり、商業的にも有益であり、ユーザーにとって望ましいものであることが求められる。ビジネスにおけるデザイン思想家として、私たちはその解決策がユーザーにとって望ましいものであるかにフォーカスする。

ユーザーファーストの原則に反するダークデザインが浮き彫りにしたもの。それは、技術的な実現可能性、商業的な有益性、そしてユーザーにとっての望ましさのバランスを、私たちが誰よりも追求しなければいけないということだと言える。

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