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デザイン組織への一歩目を探る。 それぞれのアプローチから見るデザイン組織の作り方とは? 〜Service Design Night vol.7〜

2018年8月30日、3331アーツ千代田にて「Service Design Night vol.7 実践者から学ぶデザイン組織の作り方 〜 初めの一歩を踏み出すために今日からできること 〜」が開催されました。

Service Design Nightは、デザイナーをはじめ、事業開発やプロダクト開発に関わる方向けに、スキルやノウハウを共有し、参加者同士の繋がりを広げるイベント。Webサービス開発に特化したデザインコンサルティングと制作を手がける株式会社ルートが主催しています。

第7回目となる今回は、ここ1-2年で耳にする機会も増え、昨年末に書籍が発売された“デザイン組織”についてを考えていきます。

今回登壇されたのはスタートアップや大企業、それぞれの環境でデザイン組織の構築に尽力されてきた4名の方々。dely株式会社 CTOの大竹 雅登さん、株式会社クラウドワークスの上田 和真さん、株式会社ZOZOテクノロジーズ(旧:スタートトゥデイテクノロジーズ)の田口 貴士さん、Studio Opt 竹田 哲也さんです。司会は株式会社ルート代表取締役の西村和則が、パネルディスカッションのモデレーターは長谷川恭久さんが務めました。

デザイナーの役割を明確に定義づける

イベント前半は、それぞれの自己紹介を兼ね、各社のデザイン組織構築の取り組みについて講演を頂きました。

dely CTO/執行役員 大竹雅登さん

1人目はレシピ動画サービス『kurashiru(クラシル)』を展開するdely株式会社 CTO/執行役員の大竹雅登さんです。大竹さんからは、「デザインは軽視するには重要すぎる」と題し、同社においてデザイン組織を構築する上で重視した点をご紹介いただきました。はじめに大竹さんは、delyにおけるデザイナーの役割を明確に語ります。

大竹: delyにおいて、デザインはあらゆる接点におけるサービスの一貫性を担保する大切な役割です。Webサービスの場合リリース時はすべての整合性がとれていても、改善を重ねるごとにその中で「ずれ」が生じてくる。その差分をひとつの設計のもとに統一することが日々デザイナーが挑戦している領域です。

delyではデザイナーがどのような価値を生んでいるかを明確化することを重視しているといいます。単にビジュアルを作るだけでなく、課題を発見し、原因を考え、解決策を立てるまで、幅広くプロダクトをより良くしていくアプローチをデザインは担っています。

大竹: delyでは改善すべき課題を『課題事実』『原因仮説』『解決策』の3つに分解し、改善サイクルを回しています。デザイナーはこのプロセスにおいて、データに基づいた仮説作りから、ユーザーインタビューを通した検証まで幅広く責務を担っています。

大竹さんはデザインの必要性を説明する上で役割の明確化が重要だと考えているそうです。重要な役割を担っているからこそ、それを全社に理解してもらえるよう定義づけを行うことが必要になるのです。

大竹:いまデザイン組織は、その必要性を説得力をもって語れることが求められていると思います。「なぜエンジニアの組織が必要?」とはいわれないですが、デザインはまだ言われてしまう。それは理解されるための土台作りや、定義することがまだまだ不足しているからです。それぞれの組織で必要性を定義することが、重要になるのではないでしょうか。

ボトムアップでデザイン組織を立ち上げる3つのアプローチ


クラウドワークス チーフデザイナー 兼 プロダクトオーナー 上田 和真さん

続く二人目は株式会社クラウドワークスの上田和真さん。上田さんは「ボトムアップでつくるデザイン組織ー現場で働くデザイナーとして大切にした3つのこと」と題し、同社内で実践したデザイン組織作りにおいて、重視したポイントをお話しいただきました。

上田:クラウドワークスでは現場のデザイナーが自ら行動し、ボトムアップでデザイン組織を作ってきました。組織を立ち上げたのは2016年の10月。当時、社内には4人しかデザイナーがおらず、デザインの重要性もまだまだ認知されていない状況でした。そこから徐々に価値認知を拡大し現在は10人ほどの規模まで広げてきました。

ボトムアップで組織を作ってきたクラウドワークスでは、「デザインってそんなに大事なの?」という社内の空気を変えるため、「結果」「プロセス」「評判」 の3つを通して、デザインの価値を伝え続けてきました。

まずは、開発プロセスにおいてデザイナーがどれだけ役立っているかを数字で可視化し“結果”で価値を伝える。次に、プロトタイプを元に議論したり、ユーザーインタビューにデザイナー以外の人に参加してもらうなどして、“プロセス”を通じ価値を伝える。

最後は、外部のイベントに積極的に登壇するなどして「クラウドワークス、デザイン頑張ってるよね」という“評判”を通して価値を伝える。この3つを通して、社内の認知を徐々に変化させていったといいます。

上田:結果を通して、定量的に価値を判断してもらうことはもちろん大切です。ただ、それだけでなく、デザインの意味について実感をもって理解してもらう。プロセスに参加することでデザインの意味を実感を通して理解してもらう。そうして共感者を増やした上で、外から客観的な意見としてもいい話を聞く。するとよりその動きを後押ししようという気になる。認知から理解、共感へと徐々にデザインに対する意識を変化させ、ボトムアップでうねりを起こしていきました。

「スキル」ではなく「マインド」で組織を作る


ZOZOテクノロジーズ デザイン部 企画・会社チーム チームリーダー田口貴士さん

3人目は株式会社ZOZOテクノロジーズの田口貴士さん。田口さんは「ZOZOのデザイン」と題し、デザイナーやエンジニア、アナリスト等が集まった技術者集団である同社が、どのような組織体でクリエイティブを生み出しているかを語りました。

田口:当社では、プロダクトごとそれぞれに専属でデザイナーを配置しています。いわゆる縦割りの組織体ですね。この場合担当できるプロダクトは狭まりますが、その分専門性の高いデザインに取り組める。横断的な組織にすればプロダクト問わず新しい表現を試すといった幅の広げ方もできますが、それぞれの善し悪しを考え、プロダクトへのコミットを高めることを重視しました。

同社において、とくにユニークなのは採用方針だと田口さんは語ります。デザイン教育やデザイナーとしてのキャリア経験がある人が一般的にはデザイン系の教育を受けたり、デザイン系のキャリアや経験がある人が採用されることが多い中、同社ではあえて、「スキル」ではなく「マインド」を重視したチーム作りを行っているといいます。

田口:我々の場合、会社やプロダクトの持つ空気感やノリ、チームメンバーと同じ特性をもつことをとても大切にしているんです。それっぽいデザインでなく、統一した価値観や世界観を表すデザインをするためには、この方が精度が高い。そのために、新卒や中途の採用だけでなく、社内公募も積極的に活用し、非デザインキャリアの人も積極的に中に入れています。現段階で、デザイナーの3人に1人は社内公募で入った人なんです。

ビジョンを入り口に、経営陣のマインドを変える


Studio Opt Designer 竹田哲也さん

最後は、Studio Optの竹田哲也さん。竹田さんは「デザインのない組織をデザインする」と題し、オプトグループ内で、いかにデザインのプレゼンスを高めてきたかをお話し頂きました。

オプトはインターネット広告の会社として立ち上がり、営業に強みを持つ会社として成長を重ねてきました。それが2015年のホールディングス化とともにエンジニア組織を組成しテクノロジーへも注力。竹田さんが2004年に入社し、退社したのち「再度入社」した2016年時点で明らかに不足していたのはデザインでした。

竹田:Takramの田川さんが語るビジネスとテクノロジーとクリエイティブが有機的につながることでイノベーションを生み出しやすい状態になる「BTCモデル」でいうと、当時のオプトにはビジネスとテクノロジーはあったけれど、クリエイティブが足りなかった。そこで僕はオプトにクリエイティブをインストールしようと思い、活動をはじめたんです。

竹田さんがまず取り組んだのは、オプト自体のビジョンや行動指針の刷新でした。ちょうど社長がビジョンに課題を感じていたタイミングだったこともあり、竹田さんがリニューアルを提案したところ、主導してリニューアルをまかせてもらえることに。それを皮切りに、経営レイヤーへデザインの重要性を伝え続けていきました。

竹田:ビジョンのリニューアルによって、社長や経営陣にデザインを活かすことで会社がよくなるという成功体験を積んでもらったんです。それをきっかけに、デザイン界隈の有名人が登壇するイベントに直接役員を連れて行ったり、プレゼンで使うスライドのデザインを担当したり、小さなサポートを繰り返していきました。ビジョンを変えるという大きなアプローチと、役員の意識を変えるための小さな積み重ねの結果、デザインに対する経営層の意識を徐々にシフトさせていったのです。

これに加え、コーポレートサイトや、名刺、行動指針など日常的に触れる多様なクリエイティブも刷新することで、社内にもデザインに力を入れているという認知を醸成。この結果、デザイン組織の立ち上げや、オープン イノベーションを目的とした専門組織「Studio Opt」の組成へと繋がったといいます。

ボトムアップとトップダウンはフェーズで変化するか


モデレーターを務めた、デザイナー・コンサルタントの長谷川恭久さん

後半は登壇者にService Design Nightを主催する株式会社ルート代表取締役の西村和則も議論に参加。モデレータに長谷川恭久さんを迎え、パネルディスカッションを行いました。パネルの内容は事前に会場から質問を募集し、その内容を元に展開します。

本記事では中でも盛り上がった、「ボトムアップとトップダウン」のテーマをご紹介していきます。

長谷川:みなさんのプレゼンの中で、デザイン組織のアプローチとしてはトップダウンとボトムアップの双方がありました。ただ、入り口はどちらかかもしれませんが、途中からは双方での歩み寄りがあったのではないでしょうか?


大竹:delyの場合、基本は経営陣が決定したものを組織に落とし込んだのでトップダウン主導ではあります。ただ、おっしゃるようにデザイナーが納得感がないと意味はないと思い、深く議論することは重視をしました。なので、組織のあり方であったり、デザイナーが担うべき役割と言ったところは未だにディスカッションを繰り返していますね。

上田:クラウドワークスは、ほぼボトムアップでしたね。まだまだ挑戦中という段階で、ボトムで行っている取り組みが徐々に、経営陣やマネージャー陣に伝わるのを繰り返しています。また、クラウドワークスの場合Slackを使ってオープンなコミュニケーションがおこなわれているので、経営陣との距離もそう遠くなく、空気感で伝わるものがかなり多いので、このアプローチでも問題ないというのはあると思います。

竹田:オプトの場合、社長を起点にしたという意味ではトップダウンではありますが、社長から役員陣へ広げるところでかなり苦労はありました。現社長は元テレビマンだったりするので、クリエイティブに対する理解が一定ある人です。なので僕と社長がある程度タッグを組み、他の経営陣へ伝え続けてきた感じに近いかも知れません。

より大きなインパクトを出すためにデザインができること

セッションの最後は、長谷川さんから各登壇者に組織を次のフェーズへ進めるために今後1−3年で何を目指すのかが問われた。それぞれ取り組みが少しずつ形になりつつある中、共通して目指すのはより大きなインパクトだった。

大竹:僕はCTOとしてこれまで開発組織を構築し、その一部としてデザイン組織にもアプローチをしてきました。ただ、今後はデザインの領域がより重要にあってきますし、僕自身テクノロジーだけでなくビジネスも、デザインも理解をより深めなければいけない。それぞれをバランス良く理解し、組織として大きく成長できる環境をより作っていきたいと考えています。

上田:クラウドワークスはボトムアップで組織を作るなかで、開発チーム単位では着実に成果を上げ積み重ねてきています。逆にいうと、プロダクト等に大きな影響を与えるような動きは、まだまだ不足している。次のフェーズとしては、より戦略レイヤーからデザイナーが関わり、どういう方向性にプロダクトを持って行くかなど、トップダウンでの意思決定にも入っていけるような変化が必要だと思っています。

田口:僕の個人的な思いとしては、ZOZOのデザイナーを憧れの対象にしたいんです。資生堂宣伝部やサン・アドのように、インハウスではじまったけれど、デザイナーの誰もが憧れる存在になっていきたい。そして、その憧れがデザイナーからだけでなく、デザインに興味が無い人が見てもキラキラしているような集団にし、よりデザイナーの認知や価値をポジティブな方に変化させていきたいですね。

竹田:オプトという会社でいうと、マーケティングとプロダクト開発の両輪で成長できる会社にしていきたいと思っています。現状はマーケティングや広告に強みを持っていますが、デザインやエンジニアリングがより成長すればプロダクトの軸も生まれます。その両輪をうまく機能させている会社が少ないからこそ、その希有なポジションをぜひ取っていきたいですね。


イベントを通し登壇した4社からは、具体的な取り組みからその裏にあるマインドまで幅広いナレッジが共有された。

それらの方法論を実行してデザイン組織を構築するには、組織構造やビジョンなどに合わせて適切なアプローチが必要であることも明らかになった。
未だ解のない取り組みだからこそ、各々の組織での方法論を共有し、実行し、検証するサイクルが重要視されるのではないでしょうか。

組織に、事業に、ビジネスによりデザインを取り込んでいくためにも、今回のイベントを通して広がった知見が各所で活用されていくことを期待しています。

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