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企業の成長ステージにあわせたブランディングとデザイナーの役割 root Design Meetup #3

2020年8月からroot主催でスタートしたトークイベント「root Design Meetup」では、事業の成長フェーズにおける課題に対して、ゲストを迎えたディスカッションを行っています。

第3回となる今回は、ヘイ株式会社 リードデザイナー松本 隆応さんをゲストにお招きし、株式会社ルート 代表取締役の西村が聞き手を務め、企業の成長ステージにあわせたブランディングをテーマにお話を伺いました。本記事ではその内容を中心にレポートしていきます。

創業期のブランディング施策は、ユーザーとの接触頻度と深さで優先順位を決める

rootでは、企業が注力すべき課題や施策は、企業の成長ステージにあわせて変化していくと考えています。これは、ブランディングにおいても同様です。

しかし、「創業期や上場するまでの過程で、ブランディングにどう取り組むべきか」というテーマについて話される機会は、あまりありません。今回のイベントは、西村が抱えるそんな課題感からはじまりました。

2012年にヘイ株式会社の前身であるコイニー株式会社の創業時に、4人目のメンバーとしてジョインした松本さん。創業期のコイニー株式会社では、ブランディングにおいて、どういった課題があり、施策に取り組んでいたのでしょうか。

松本:創業期には企業が置かれている状況が刻一刻と変化していきます。そんな変化の早い環境でロゴをデザインして、カラーパレットをつくって、ブランドガイドラインを策定して、と時間をかけたブランド施策に取り組んでいては効果が得られません。やるべきことと諦めるべきことを上手く整理していく必要があります。そして、その優先順位はユーザーがアウトプットに触れる「深さ」と「頻度」を軸に整理していました

接触の「頻度」を基準に判断すると、一定期間内にユーザーが目にする回数が多いアウトプットほど優先されます。一方、接触の「深さ」では、1度の接点でより深くブランドの世界観を理解できるアウトプットが優先されることになります。この2つの軸を基準に、接触の頻度と深さどちらも高いものとしてロゴが挙げられました。創業期、ロゴについては、特に優先度高く取り組んだと、松本さんは話します。

松本:実は私が入社したときには、すでにクラウドソーシングでつくってもらったロゴが存在していたんです。ただ、そのロゴは、形としては整っていたものの、ストーリーが不在の状態でした。なぜこのロゴなのか、その背景にどんな思いがあるのかというストーリーが、見えてこない。接触の「深さ」を満たしていないアウトプットになってしまっていた。そこで創業者と話し合い、1ヶ月後にはロゴのリニューアルと、リブランディングを行いました。

西村:創業期では、プロダクトを形にして、事業に落としこんでいくことが優先されやすく、事業の背景にあるストーリーの組み立てなどは後手にまわされやすいですよね。創業期のうちにストーリーの組み立てに取り組んだことは、その後のブランディングにどう影響しましたか。

松本:ロゴは、「北極星」みたいなものだと思っています。なんだかんだロゴのビジュアル的な印象に引きずられて、実際のアウトプットも変わってきてしまう。結果、ブランドパーソナリティや意思決定にも影響してしまう。

西村:先にロゴを固めることでブランドのパーソナリティが明確になり、その先のプロダクト開発においても、パーソナリティを統一した状態で展開されていくということですね。

松本:そうですね、そういう見方をするとユーザーとの接触頻度と深さの2軸において、ロゴはとても重要な位置にあるものなんです。

西村:ユーザーとのタッチポイントを洗い出し、ブランド体験として抑えるべき重要なポイントはどこか、見極めた上で取捨選択されていた様子がよくわかりました。

ブランディングをリードするデザイナーは、経営者の翻訳家になってはいけない

コイニーの場合には、デザインに対する理解やこだわりの強い創業者の協力もあり、形だけではない、ロゴのリニューアルを通して、背景にあるストーリーを含めたリブランディングに取り組むことができたといいます。

もし、ストーリーを共有する重要性が社内で理解されなかった場合には、社内のメンバーに対して理解を促すこともデザイナーの役割になると松本さんは語ります。

松本:まずは、社内でめざしたい世界観と、その世界観をどれくらい表現したいのか話してみるとよいですね。ブランディングは、自分たちがめざす世界観を実現しようとする行為です。そしてロゴのようなアウトプットはその実現の先で表出してくるものです。めざしている世界観と、今の自分達のアウトプットを照らし合わせて見ると「なんか違う」という現実が見えてくる。ここではじめて、デザイナーじゃないメンバーも「変えなきゃ」と腹落ちすることができる。ここでは、費用対効果よりも、事業を通してやりたいことがなんなのか、感情的に気づいてもらうことが大事だと思っています。

西村:とても本質的な問いですね。自分がその事業を通してなにがやりたいのか、明確に見えている経営者は多くないと感じます。事業が拡大していくごとに追わなければいけないことが増えていくし、言語化にはかなり時間を要するので、できるだけ早いタイミングで考えるきっかけがあったほうがいいですよね。そして、その言語化のための棚卸しも経営者が1人でやるというよりは、デザイナーとアウトプットに向かうプロセスの中で対話をしながら研ぎ澄ましていくようリードできると理想的ですね。

では、ブランディングをリードするデザイナーが対話の中で意識すべきことはなんでしょうか。経営者の考えを読み取って、経営者の視点を引き出すために、必要なことについて語られました。

松本:いきなり、どんなデザインにしたいかから話したりアウトプットを出したりせず、対等に話すための土台を固めることが重要です。まずは業界の知識をベースとしてインプットしつつ、時間軸で長く捉える。過去どういうものだったのか、未来どうなっていくものなのか。デザイナーが見ている未来と経営者の方から見える未来の差分はなにか。経営者の方も、言語化できていないうちから答えを求められるのはしんどいですよね。そういったときにデザイナーとして、相手の考えを咀嚼して「こういう視点もあるんじゃないですか」と提示できることが大事ですね。

西村:経営者側も形としてどういうものが適切か、はっきりとはわかっていませんよね。方向性を定めるためにデザイナーからアプローチすることで、こういうものもあるんだと経営者との間で視点を行ったり来たりできるのが望ましいですよね

松本:そうですね。単純な翻訳家にはなってはいけないと思っています。

ブランド浸透のためのツールを整備し、成長期の組織拡大に備えよう

続くテーマでは「本格的にブランディングを考えた転換期」についてディスカッションが交わされました。松本さんは具体的なタイミングとして、「30人の壁」をあげました。

松本:最初は、制作したアウトプット自体が共通認識を示す指針になっていました。ただ30人を超えてくると基準にばらつきがでてきます。このあたりで外からの見え方としてのブランディングよりも、中の文化をきちんと揃えるインターナルにシフトしていきました。まずは、会社として正しい意思決定がどういうことなのかを言語化し、「Coiney Culture Code(以後、CCC)」というドキュメントとしてまとめました。何を目指し、何をどのように作り、どう働くのかがこのCCCに集約されています。つくった後の運用もふまえ、中身は非常にシンプルなつくりにしました。

西村:それまで暗黙知でなんとなく掴んでいたことを、ドキュメント化して全員が解釈できるツールとして用意していったんですね。人が増えていくなかで、こういったツールがなければ、それぞれの中にあるブランドのズレがどんどん大きくなってしまいますよね。

松本:「人」も、事業におけるタッチポイントのひとつです。たとえば、採用面接のときに全員が同じ軸でブランドについて話せていなければ、そこからもさらにずれていってしまう。ずれた状態のまま人を増やしていくことが、さらに大きなズレを生んでしまうんです。

創業時には、ユーザー接点一つひとつを担当されていた松本さん。今では組織のデザインに関わる施策を中心に担われています。こうした役割の移り変わりは、組織の課題に対して大きなインパクトを生み出せるポイントを追いかけているうちに起こった変化だといいます。

松本:今は、文化や概念を既知に変えていく取り組みが注力ポイントになっています。
いくつもプロダクトがあるなか、全部自分が見たり、つくったりするのは不可能です。サービスや、コミュニケーションガイドラインの策定やデザイナー行動指針の策定を通して実際に手を動かしてプロダクトをつくる人達の意識を合わせていくほうが小さい力で大きなインパクトを与えることができますよね。他にも、ストーリーテラーとしてブランドストーリーの外部への発信とそのフィードバックによる内部の共感の醸成といった事に取り組むようになりました。

西村:ヘイの場合、初期からインハウスデザイナーである松本さんがリードを担っていたからこそ組織全体にブランドを浸透させられています。しかし、早い段階で経営者の素地を獲得できないまま成長が進んでいくと、少数のインハウスデザイナーだけでブランドを確立させることは難しい。そういったときには、私達のような外部の支援者とうまく連携して内外両方からアプローチができると効果をだしやすいと思います。外部の力を借りて決定権持ってる人とコミュニケーションとったり、意思決定の場で第三者の声として話してもらったり。

松本:たしかにそうですね。あとは、社内のメンバーだけだと閉じた思考に陥りがちで、チャレンジすることを閉ざしがちです。表現としても、だれもが反対しないところに着地させてしまったり新しいものを生み出しづらいスパイラルに入ってしまったり。そういうときには、外部からの視点がよいインプットになり、重要な役割を担ってもらっていると感じます。

【次回】12月17日(木)開催!
root Design Meetup #4 「プロダクトチームを加速させるUXリサーチの役割とは?」

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